表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
朝を歩け。  作者: 維酉
はじめてのEP【S・S・G】
62/176

57 三週間後の

 喫茶店『テト』に行けば、やはりというか、みい子がいた。O-Motとして最近売れてる、シンガーソングライター。


「大元さん」と、みき、呼べば、

「お、きみか」笑顔で出迎えてくれる。「ひさしぶり。元気してた?」

「はい、依然変わりなく」

「そっか、いいね」


 となりのテーブルに座り、みき、サンドイッチをオーダー。


 みい子はパソコンひらいて、いまも曲を作っているらしい。でも、あんまり真剣な感じでもなく、というか、ほとんどマウスも動かさないし、キーボードも叩かない。


 みき、


「そういえば、セカンドシングル出してましたよね」

「あ、うん。そういえば出したね。もしかしてきいちゃったの?」

「はい、ききました」

「そんな律儀に」

「売れ行き、いいらしいじゃないですか」

「みたいだね。この調子で稼ぎたいなー。ざっと一億くらい」

「豪邸が建ちますね」

「そしたら招待するよ。迎えはもちろんリムジンで」


 みい子、肩をすくめる。


 注文のサンドイッチと、ホットコーヒーがくる。


「今日はどうしたの?」みい子、ふいに尋ねる。

「うーん、特に理由は……」

「そっか……え、本当になにもない?」


 みき、くすっと笑う。


「強いていえば、助言をいただきたくて。高校時代にバンドをやってらしたんですよね」

「うん、やってたよ。これでも人気バンドだったんだから」

「どうやって、音、合わせてましたか?」

「うん」


 みい子、パソコンの画面をじっと見て、しばらくしてみきを見て、


「きみならうまくやれそうだけどな」と、にっこりする。「そうか、一年生とが難しいのか」

「え?」

「ほら、前に会ったとき、一年生がバンドに入ったって」

「あ、はい。そうなんです。だから、ところどころぎこちなくて。ちょっとはよくなってきたんですけど、文化祭までに、そこらへんを直せるか、ちょっとびみょうで」

「なるほどね」


 得心したようにうなずく。で、ちょっと考えたあと、


「参考になるかわかんないけど」と前置きして、「わたしたちのバンドは、最初からひとりひとり、別の場所で音楽してたんだ。それをわたしがかき集めたの。だからまぁ、最初は息も合わなくてね、苦労してた。でも、みんな音楽がすきだった」


 パソコンを、ぱたんと閉じる。みきの目を見て、


「実はね、音楽って、かなり理屈のないところで動くことがあるの。まぁきみは知ってるかも。あの、音がひとつになって、ただひたすらすきになれる感情。感じたことない?」

「……あります、たぶん」

「だったら、それを大切にするだけでいいんだよ。それを追い求めるだけでいい。バンドなんだもの、みんなで楽しんだらね、音楽も楽しいものになっていくから」


 そこまでいうと、みい子、ほころんで、


「つまり、きみなら大丈夫。うまくやれてる」


 と、なぜか自信たっぷりいいきってくれる。みき、それにびっくりして、でも、


「……ありがとうございます」


 ちょっぴりあたたかくなれる。


「あ、そういえば、文化祭っていつだっけ」

「三週間後の土曜日です。あの、もしよかったら」

「その日は、なんと、オフです!」


 にしし、と面白そうに笑う、みい子。


「がんばってね、楽しみにしてるから」


 みき、勇気がわくような、気がした。



【大元みい子 シンガーソングライター】


 最近ちょっと話題の新人アーティスト。

 喫茶店『テト』に入り浸っている。


 まじめでいろいろと器用だが、どこか抜けたところがある。SNSをやっていて、深夜まで呟くこともあり、一部では相当な〈廃人〉として有名。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ