57 三週間後の
喫茶店『テト』に行けば、やはりというか、みい子がいた。O-Motとして最近売れてる、シンガーソングライター。
「大元さん」と、みき、呼べば、
「お、きみか」笑顔で出迎えてくれる。「ひさしぶり。元気してた?」
「はい、依然変わりなく」
「そっか、いいね」
となりのテーブルに座り、みき、サンドイッチをオーダー。
みい子はパソコンひらいて、いまも曲を作っているらしい。でも、あんまり真剣な感じでもなく、というか、ほとんどマウスも動かさないし、キーボードも叩かない。
みき、
「そういえば、セカンドシングル出してましたよね」
「あ、うん。そういえば出したね。もしかしてきいちゃったの?」
「はい、ききました」
「そんな律儀に」
「売れ行き、いいらしいじゃないですか」
「みたいだね。この調子で稼ぎたいなー。ざっと一億くらい」
「豪邸が建ちますね」
「そしたら招待するよ。迎えはもちろんリムジンで」
みい子、肩をすくめる。
注文のサンドイッチと、ホットコーヒーがくる。
「今日はどうしたの?」みい子、ふいに尋ねる。
「うーん、特に理由は……」
「そっか……え、本当になにもない?」
みき、くすっと笑う。
「強いていえば、助言をいただきたくて。高校時代にバンドをやってらしたんですよね」
「うん、やってたよ。これでも人気バンドだったんだから」
「どうやって、音、合わせてましたか?」
「うん」
みい子、パソコンの画面をじっと見て、しばらくしてみきを見て、
「きみならうまくやれそうだけどな」と、にっこりする。「そうか、一年生とが難しいのか」
「え?」
「ほら、前に会ったとき、一年生がバンドに入ったって」
「あ、はい。そうなんです。だから、ところどころぎこちなくて。ちょっとはよくなってきたんですけど、文化祭までに、そこらへんを直せるか、ちょっとびみょうで」
「なるほどね」
得心したようにうなずく。で、ちょっと考えたあと、
「参考になるかわかんないけど」と前置きして、「わたしたちのバンドは、最初からひとりひとり、別の場所で音楽してたんだ。それをわたしがかき集めたの。だからまぁ、最初は息も合わなくてね、苦労してた。でも、みんな音楽がすきだった」
パソコンを、ぱたんと閉じる。みきの目を見て、
「実はね、音楽って、かなり理屈のないところで動くことがあるの。まぁきみは知ってるかも。あの、音がひとつになって、ただひたすらすきになれる感情。感じたことない?」
「……あります、たぶん」
「だったら、それを大切にするだけでいいんだよ。それを追い求めるだけでいい。バンドなんだもの、みんなで楽しんだらね、音楽も楽しいものになっていくから」
そこまでいうと、みい子、ほころんで、
「つまり、きみなら大丈夫。うまくやれてる」
と、なぜか自信たっぷりいいきってくれる。みき、それにびっくりして、でも、
「……ありがとうございます」
ちょっぴりあたたかくなれる。
「あ、そういえば、文化祭っていつだっけ」
「三週間後の土曜日です。あの、もしよかったら」
「その日は、なんと、オフです!」
にしし、と面白そうに笑う、みい子。
「がんばってね、楽しみにしてるから」
みき、勇気がわくような、気がした。
【大元みい子 シンガーソングライター】
最近ちょっと話題の新人アーティスト。
喫茶店『テト』に入り浸っている。
まじめでいろいろと器用だが、どこか抜けたところがある。SNSをやっていて、深夜まで呟くこともあり、一部では相当な〈廃人〉として有名。




