55 握津さん
うめ、なんとなく緊張して、学校にくる。
たいしたことはない。ちょっとののに、おかねを返してもらうだけの予定があって、緊張しているのである。
なんでそんなだけで、と自分でも思わないでもない。
いや、でも、むかしっからそう。人見知りで、さいきんちょっと治ってきたかとおもっていたけど、そんなこともなかったみたい。
うめ、自分で自分に苦笑い。だいじょうぶ、ちょっと貸したおかねを返してもらうだけで――
「うめちゃん!」
「わっ」
急にうしろから、ののが現れた。おもわず肩が跳ねる。
「あ、ごめん。おどろかせちゃった?」
「う、ううん」なんとか気を取り直す。「だいじょうぶ……です。だよ?」
へんなしゃべりかたになった。あの、なんというか、いまだに距離をはかりかねている。
のの、気にするそぶりなく、
「早めに返しとこうとおもって」
と、昨日のバス代数百円を手渡してくれる。
「昨日はありがとうね」
「ううん。あ、えっと……」
どうしよう。すこし会話のラリーをしたほうがいいのかな。自然なかんじで。
けど、そうだ。仲よくしたいのに、うまくやれないのは、どうしてなんだろうって、それはきっと、こう、へんに考えちゃうからかもしれない。
みきちゃんたちとおしゃべりするとき、考えながらものをいっている? ううん、そんなことなくて、だからきっと、みんなと話すときみたいに……
「昨日、濡れたりとかしませんでし――」いや、だから、「し、しなかった?」
またへんな語尾に。
「おかげさまで、風邪もひかずに」のの、やはりことば遣いを気にしなくて。「このとおり元気だよ。ほんとに助かった」
「そっか。よかった」
これで終わればいいのかな、とか、また考えちゃう。そうじゃなくて、ともすぐおもう。そうじゃなくて、自分がおもったことを、もっとそのまま。
昨日、みきのいうには、ののはもう、うめと仲がいいつもりらしい。なら、それを信じて、おしゃべりしてしまえばいい。だから、おもったことを、そのまま。
うん、だったら、
「あの、握津さん」
「うん」
すごく純粋な眼で、のぞいてくる。距離ってあったのかな、とふいにおもう。わたしが勝手に離れていただけなのかも。
「えっと……また、なにか困ったことがあったら……いってね。わたしにできることなら、お手伝いするから」
いってみる。どうだろう。
のの、にっこりして、
「ありがと、じゃあ、たくさん頼っちゃうね」なんて、ちょっと茶目っ気のある声で。「あと、ののでいいよ」
「……ののちゃん」
「うん!」
よろしい、と、ののはいたずらっぽく笑う。うめ、どことなくあたたかい心持になった。梅雨時期の、晴れた朝のことだった。
【笹田うめ 高校二年生】
人見知りする女の子。
卓球がうまい。
なぜか病的にカエルがすき。最近カエルの話ができていないので、ちょっと残念に思っている。




