01 六段目
「チ・ヨ・コ・レ・イ・ト」
しおが六段目に足をかけて、振り返った。ボブショートが夕陽にきらり。
「まず一勝」
「まだ一勝」とみき。
「あたしゃいち抜けするから」
「させない」とゆか。
十一月の放課後、日は短くなる。午後四時半、神社、石段。今日は月曜日で、部活がない。いいようもなく暇、じかんつぶしに、なんとなく選んだ場所だった。
「第二戦目~」
流していた髪をひとつにまとめて、みきがグーを掲げた。
「やっぱみきはポニテだよ」髪を長く伸ばしたゆかがいう。
「うっせ」
「やるならさっさとやろーぜー」
じゃんけん、ぽん。
「勝った~」
パ・イ・ナ・ツ・プ・ル、とゆかが六段。すらと長いあし、階段をぴょんぴょんといく。
ゆかはしおと並んだ。
「みき~」
「次はわたしが勝つし」
「がんばれー」
じゃんけん、ぽん。
「ほら勝った」
グ・リ・コ。
「つまりもう一回勝てばいいの」
「勝たせるかよ」
「そういえば、ここの石段ってどのくらい段数あるのかな」
「あー……」
ゆかの言葉に、三人ともがうえを見る。石段、ずらり並んでいる。灰色の鳥居が頂上にあった。
しおがいう。
「ざっと百?」
「それは長いな~」
「どんだけじゃんけんすんの」
「最短で十七」
「長~」
「時間はくさるほどあるけど……」
「おひさまが沈む」
「暗くなるねぇ」
六段目、しおがたいぎそうに腰かけた。宵闇がゆっくりと近づいてくる。マーブリングしたふうな空になっていた。
「帰ったらベースでも弾くかぁ」
しおがひとり、ぽつりといった。
ひゅう、と風が吹く。肌寒い風だった。冷え込んできたと、みきは思った。指の芯まで、ロウで固められる季節がくる。
「……寒いし帰ろっか~」
「そだねー」
「ちょっと待った」
六段目のふたりに、みき。
「わたしだけ三段じゃん」
「……」
「……」
「「「じゃーんけーん」」」
グー、チョキ、チョキ。
グ・リ・コ。
「おそろいの六段~」
「あしたの部活はどーするよ」
「新曲」
「練習だね~」
「オッケー」
遠くでからすが鳴いていた。かーらーすー、なぜ鳴くのー、ゆかが口ずさむ。からすの勝手でしょー、しお。みきは、そこからの歌詞わかんねー。
ゆっくり帰る。みきは手袋をはめる。陽の沈むのが、あたたかかった。
【夏井みき 高校一年生】
軽音楽部の部長で、三人のリーダー的存在。
ポニーテールの似合う子で、それ以外の髪型を試してみるけれど、結局もとに戻る。
毒舌でもあるけれど、根はやさしく面倒見がいい。なんだかんだいって、しおとゆかの思いつきにいつも付き合っている。