53 くじ引き
「負けちった」と、しお、ベンチに座りながらいう。
「おつかれぇ」
「おつかれさま、しおちゃん。お茶のむ?」
「さんきゅー」
うめからペットボトルいりのお茶をもらって、ぱすりとふたを開ける。のどに流して、それからグラウンドをみわたして、
「つぎ、みきのクラス?」と訊く。
「そうだよぉ」ゆか、ゆったりうなずく。「勝てるといいねぇ」
「わたしたちみんな、初戦敗退だもんね」
「かなしいなー」
五月末、球技大会の時期である。ことしの種目はソフトボールがえらばれて、一ゲーム三回表裏のきまりで、トーナメント戦。しおのクラスも、ゆかとうめのクラスも、一回戦であえなく敗退ということで、のこすはみきのクラスを応援するのみである。
と、どうやら試合がはじまった。みきのクラスが先攻で、一番バッター、二番バッターと出塁する。
ノーアウト、ランナーは一塁二塁。そこで三番バッター、みきがあらわれる。
「みき~、がんばれ~」
と、ゆか、声をはりあげると、どうやら気づいてくれたらしい。こちらを見て、ちょっと笑って、手を振ってくれる。
で、構える。相手ピッチャーが投げて、初球打ちだった。きれいなフォームでバットを振れば、打球はセンターの真上を抜けていく。
一塁、二塁のランナーはホームに帰って、みきは二塁。さっそく二点先取だ。
「やるなー」と、しお。「しおちゃんの応援がいきたな」
「そうだねぇ」てきとうに答える、ゆか。「ねぇねぇ、うちわとかあったら、よかったかな?」
「面白そうだけど」うめ、ちょっとかんがえて、「あとでみきちゃんに怒られそう」
「たしかにねぇ」
みきのクラス、そのままの調子で点を重ねて、三回の表がおわるころには、六対二の状況。裏もきっちりおさえて、快勝する。
もどってきたみきに、しお、
「一回戦突破、おめでとー」
「お、あんがと」
「お茶どうぞ」と、うめ、なんだか野球部のマネージャーみたいな。
「すごいねぇ、打ってたねぇ」
「たまたまだよ」
「希望の星だねぇ」
「なんで?」
「ほら、わたしたちもう、敗退しちゃったから」
「あぁ、そういう」お茶をのみながら、みき、「でも、敗者復活とかあるじゃん。別枠でトーナメントやるんでしょ」
「そうなの?」
「まぁ参加クラスはくじ引きで決まるんだけど」
「あ、じゃあ、当たらないね。クラス多いし」
うめ、肩をすくめる。そこに、
「戸殿さーん、笹田さーん」と、ふたりを呼ぶ声。振りかえると、ふたりのクラスの体育委員が、「くじ引き、当たったよー」なんて。
まさか。うめ、ゆか、びっくりしてしまう。
「いってらー」と、しお。「あたしのぶんも楽しんで……」
「そういやおまえ、今日の成績は?」
「内野フライとピッチャーゴロです」
「あ、わるい……」
「あやまるなよ!」
「あはは」うめ、みきとしおの会話に苦笑いしてしまう。「あ、じゃあ、行こっか、ゆかちゃん」
「そうだねぇ」
ゆか、あんまり乗り気じゃないみたい。みき、その肩をぽんと叩いて、
「ま、てきとうにやればいいよ」といってみる。
「そうだねぇ」能天気なへんじ。「応援しててねぇ」
「おう」
にへらと笑みをうかべて、ゆか、クラスに戻っていった。
【夏井みき 高校二年生】
面倒見のいい女の子。
口はわるいが、けっこう親切。
まわりからポニーテール以外の髪型が不評で、あまりおろさないが、年に数度は挑戦してみることがある。でも結局ポニテにもどる。




