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朝を歩け。  作者: 維酉
2nd Single【恋と渦巻き】
55/176

50 距離感

「みきちゃん、結婚しよう」


 と、ののにいわれた。


「どうしたの、急に」

「どうもしないけど。ついつい結婚したくなった」

「そうなんだ」


 よくわからない。


「してもいいけど、掃除と洗濯と料理と親父は、ぜんぶおしつけるよ」

「んー……」ちょっと悩むも、「いいよ」

「いいんだ」


 本当にいいのか。


「毎日ゴロゴロしてていいよ」

「そっか。うれしい。なら結婚しよう」

「やったー!」よろこぶ、のの。「あ、これから、あと三人くらい嫁入り希望者がくると思うけど、浮気しないでね」

「へ? うん。わかった」


 のの、教室を出ていく。なんとなく、どういうゲームか察しがついた。へんなことを考えるやつも、いるものである。


 うめとのの、ふたりのつながりは、なにかしらあるらしいが、たぶんそこからうめ経由で、しおとゆか、仲よくなったのだろう。ののはフレンドリーだし、ふしぎでも、ないかも。


 と、ここで、しおがきた。このゲーム、考え出したやつは、こいつだろうか。その線が濃厚である。


 が、しお、結婚とかいわず、


「あっち向いてホイやろう」

「え? うん」


 じゃんけんする。みきが勝つ。右を差す。しおは右を向く。


「よっわ」


 思わず、口に出してしまう。


「あれ、マジでやべーな」しお、気にしていない。「あ、みき。これからあと二人くらい挑戦者がくる」

「え、うん。わかった」


 ……どういうゲームなんだろうか。


 しおが出ていく。入れ替わりで、ゆかが来る。


「じゃーんけーん」と、ゆか。たぶんあっち向いてホイ。


 みき、グーで、ゆかはパー。


「勝った~」

「え?」じゃんけんだけで終わった。「あれ。これ、なに?」

「あとひとりくるからね~」

「うん。うめちゃんでしょ。わかる」


 もちろん、次に来たのはうめだった。


「話、通じる?」先にみき、いう。

「あ、うん、通じるよ」苦笑いされる。「どうしたの?」

「いや、わたしにはちょっと、どういうルールなのかわからなくて」

「うん。わたしもわからない」


 どうなんだろう、それは。


「しおはあっち向いてホイだし、ゆかはじゃんけんだけだし、ののちゃんは求婚してくるし……」

「カオスだね」

「うん。カオス。いまのところ、うめちゃんしか普通のひとがいない」

「あはは……あれ、握津さんも来たの?」

「え、うん。いちばん最初に」

「そうなんだ。あれ? なんで握津さんまで?」

「え?」


 まさか、この謎のゲームの参加者でもなんでもないのか、握津のの。


 たまにへんなことをする子ではあるが、今回がそれだったとは。


「あ、みきちゃーん」


 と、声が聞こえる。うめが固まる。声のするほうから、のの、歩いてきていた。


「浮気してない?」

「あ、ごめん。いま浮気してた」

「プレイガールめ。困るよね、うめちゃん」

「へっ!? あ、そうですね……」

「……距離を見誤ったか」のの、うめに聞こえないよう、小声でいう。

「ののちゃんの悪いとこだよ」みきも、小声で。

「仲良くなりたいんだけどなぁ」

「食べようとしなきゃいいんだよ。距離感だよ」

「なるほどね」

「あ、えっと……どうかした?」

「ううん。なんでも」


 みきとのの、かぶりをふる。うめ、よくわかってない感じで、「そう?」と小首をかしげた。



【握津のの 高校二年生】


 みきの同級生。

 軽音楽部員のねねの姉。


 妹とは対称的にパーソナルスペースが狭く、だいたいの人に好かれる。うめにたいそう興味がある。うどんが好き。

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