50 距離感
「みきちゃん、結婚しよう」
と、ののにいわれた。
「どうしたの、急に」
「どうもしないけど。ついつい結婚したくなった」
「そうなんだ」
よくわからない。
「してもいいけど、掃除と洗濯と料理と親父は、ぜんぶおしつけるよ」
「んー……」ちょっと悩むも、「いいよ」
「いいんだ」
本当にいいのか。
「毎日ゴロゴロしてていいよ」
「そっか。うれしい。なら結婚しよう」
「やったー!」よろこぶ、のの。「あ、これから、あと三人くらい嫁入り希望者がくると思うけど、浮気しないでね」
「へ? うん。わかった」
のの、教室を出ていく。なんとなく、どういうゲームか察しがついた。へんなことを考えるやつも、いるものである。
うめとのの、ふたりのつながりは、なにかしらあるらしいが、たぶんそこからうめ経由で、しおとゆか、仲よくなったのだろう。ののはフレンドリーだし、ふしぎでも、ないかも。
と、ここで、しおがきた。このゲーム、考え出したやつは、こいつだろうか。その線が濃厚である。
が、しお、結婚とかいわず、
「あっち向いてホイやろう」
「え? うん」
じゃんけんする。みきが勝つ。右を差す。しおは右を向く。
「よっわ」
思わず、口に出してしまう。
「あれ、マジでやべーな」しお、気にしていない。「あ、みき。これからあと二人くらい挑戦者がくる」
「え、うん。わかった」
……どういうゲームなんだろうか。
しおが出ていく。入れ替わりで、ゆかが来る。
「じゃーんけーん」と、ゆか。たぶんあっち向いてホイ。
みき、グーで、ゆかはパー。
「勝った~」
「え?」じゃんけんだけで終わった。「あれ。これ、なに?」
「あとひとりくるからね~」
「うん。うめちゃんでしょ。わかる」
もちろん、次に来たのはうめだった。
「話、通じる?」先にみき、いう。
「あ、うん、通じるよ」苦笑いされる。「どうしたの?」
「いや、わたしにはちょっと、どういうルールなのかわからなくて」
「うん。わたしもわからない」
どうなんだろう、それは。
「しおはあっち向いてホイだし、ゆかはじゃんけんだけだし、ののちゃんは求婚してくるし……」
「カオスだね」
「うん。カオス。いまのところ、うめちゃんしか普通のひとがいない」
「あはは……あれ、握津さんも来たの?」
「え、うん。いちばん最初に」
「そうなんだ。あれ? なんで握津さんまで?」
「え?」
まさか、この謎のゲームの参加者でもなんでもないのか、握津のの。
たまにへんなことをする子ではあるが、今回がそれだったとは。
「あ、みきちゃーん」
と、声が聞こえる。うめが固まる。声のするほうから、のの、歩いてきていた。
「浮気してない?」
「あ、ごめん。いま浮気してた」
「プレイガールめ。困るよね、うめちゃん」
「へっ!? あ、そうですね……」
「……距離を見誤ったか」のの、うめに聞こえないよう、小声でいう。
「ののちゃんの悪いとこだよ」みきも、小声で。
「仲良くなりたいんだけどなぁ」
「食べようとしなきゃいいんだよ。距離感だよ」
「なるほどね」
「あ、えっと……どうかした?」
「ううん。なんでも」
みきとのの、かぶりをふる。うめ、よくわかってない感じで、「そう?」と小首をかしげた。
【握津のの 高校二年生】
みきの同級生。
軽音楽部員のねねの姉。
妹とは対称的にパーソナルスペースが狭く、だいたいの人に好かれる。うめにたいそう興味がある。うどんが好き。




