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朝を歩け。  作者: 維酉
2nd Single【恋と渦巻き】
54/176

49 トラップ

 ねね、休憩時間に、ぼーっとしていると、目の前にかうなが現れた。右手になにやらもっている。なんだろう、と思っていたら、かうな、にやにやして、


「ちょっと協力お頼みしたい」と、いう。

「うん、いいよ」


 ふたつ返事する。まぁひまだし、十分そこらしかない休憩時間で、だいそれたこともしないだろうし。


「なに、難しいことはないのですよ」かうな、わるい笑み。「これをシーちゃんのイスにしかけてくれれば」


 ブーブークッションを渡された。なんて古典的な、ねね、思いつつも、承ったてまえ、ノーともいいにくい。


「シーちゃんはわたしが釣るから、そのあいだに置いとくだけでいいよ」


 そういいのこして、かうなはシーのところまで駆けていく。で、いっしょに教室を出ていった。


「……まぁ、しかたないか」


 小声でつぶやいて、シーの席までいく。いちおう、しかけておく。それに、ほかのクラスメイトが気付いたので、


「あ、えっと……」すこしオドオドしつつ、「ないしょにね」と、笑ってみる。クラスメイトも、笑いながらうなずく。


 すこしして、シーが帰ってくる。かうなもいっしょである。だいじょうぶ? と口パクで訊かれたので、首を縦にふる。ちっちゃくグーサインされる。


 で、シー、席まできて、イスを引く。かうな、期待に満ちた目でそれを見守る。ねね、どうなることかと思う。クラスメイトも、なんだかちょっと面白そうに見ている。


 イスに座る、そのまえに、一瞬だけシーが下を見た。


 気付かれた。あきらかにバレている。


 にもかかわらず、シー、迷いなくそのまま座った。ブーブークッション、発動する。


 芸人だなぁ、というのが、ねねの率直な感想である。


 とはいえ、トラップの音を聞いて、かうな、大笑いする。まわりのクラスメイトも、ちょっと堪えられていない。たぶん、シーが気付いていたことに、気付いていない。


「……牛ちゃん」


 声が聞こえて、ぴたっとかうなの動きが止まる。シーが立ち上がっている。


「は、はい」


 シー、にっこりする。危険を察したのか、かうな、脱兎の勢いで教室を出る。それを追って、シーも飛び出ていった。もう堪えず、ケタケタ笑うクラスメイトたち。


「仲いいなぁ……」


 思わず、ねね、つぶやく。聞くに、小学校からの幼馴染らしい。そりゃあ、あれだけ仲がよくても、ふしぎなことはない。


 もうとっちめてきたのだろう、シーが教室にもどってくる。すると、しかけたままの、古典的なトラップことブーブークッションを手にして、ゆっくり、ねねのほうへ歩いてくる。


 静かにイスを引き、ねね、立ち上がる。


「ねねちゃん?」

「う、うちは関係ないよ……?」

「そうなんだ」


 シー、うなずく。にこにこ顔のままである。

 すごく怖い。


「チャイム……チャイム鳴るから、もうすぐ……!」

「そうだね。今日は部活もあるしね」

「ご、ごめんなさい……!」


 と、あやまったところで、チャイムが鳴った。



【握津ねね 高校一年生】


 極度のひとみしり。うたうことが得意。


 かうなに振り回されることが多々あるが、なんだかんだで楽しんでいる。シーをいろんな意味で尊敬しているらしい。

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