49 トラップ
ねね、休憩時間に、ぼーっとしていると、目の前にかうなが現れた。右手になにやらもっている。なんだろう、と思っていたら、かうな、にやにやして、
「ちょっと協力お頼みしたい」と、いう。
「うん、いいよ」
ふたつ返事する。まぁひまだし、十分そこらしかない休憩時間で、だいそれたこともしないだろうし。
「なに、難しいことはないのですよ」かうな、わるい笑み。「これをシーちゃんのイスにしかけてくれれば」
ブーブークッションを渡された。なんて古典的な、ねね、思いつつも、承ったてまえ、ノーともいいにくい。
「シーちゃんはわたしが釣るから、そのあいだに置いとくだけでいいよ」
そういいのこして、かうなはシーのところまで駆けていく。で、いっしょに教室を出ていった。
「……まぁ、しかたないか」
小声でつぶやいて、シーの席までいく。いちおう、しかけておく。それに、ほかのクラスメイトが気付いたので、
「あ、えっと……」すこしオドオドしつつ、「ないしょにね」と、笑ってみる。クラスメイトも、笑いながらうなずく。
すこしして、シーが帰ってくる。かうなもいっしょである。だいじょうぶ? と口パクで訊かれたので、首を縦にふる。ちっちゃくグーサインされる。
で、シー、席まできて、イスを引く。かうな、期待に満ちた目でそれを見守る。ねね、どうなることかと思う。クラスメイトも、なんだかちょっと面白そうに見ている。
イスに座る、そのまえに、一瞬だけシーが下を見た。
気付かれた。あきらかにバレている。
にもかかわらず、シー、迷いなくそのまま座った。ブーブークッション、発動する。
芸人だなぁ、というのが、ねねの率直な感想である。
とはいえ、トラップの音を聞いて、かうな、大笑いする。まわりのクラスメイトも、ちょっと堪えられていない。たぶん、シーが気付いていたことに、気付いていない。
「……牛ちゃん」
声が聞こえて、ぴたっとかうなの動きが止まる。シーが立ち上がっている。
「は、はい」
シー、にっこりする。危険を察したのか、かうな、脱兎の勢いで教室を出る。それを追って、シーも飛び出ていった。もう堪えず、ケタケタ笑うクラスメイトたち。
「仲いいなぁ……」
思わず、ねね、つぶやく。聞くに、小学校からの幼馴染らしい。そりゃあ、あれだけ仲がよくても、ふしぎなことはない。
もうとっちめてきたのだろう、シーが教室にもどってくる。すると、しかけたままの、古典的なトラップことブーブークッションを手にして、ゆっくり、ねねのほうへ歩いてくる。
静かにイスを引き、ねね、立ち上がる。
「ねねちゃん?」
「う、うちは関係ないよ……?」
「そうなんだ」
シー、うなずく。にこにこ顔のままである。
すごく怖い。
「チャイム……チャイム鳴るから、もうすぐ……!」
「そうだね。今日は部活もあるしね」
「ご、ごめんなさい……!」
と、あやまったところで、チャイムが鳴った。
【握津ねね 高校一年生】
極度のひとみしり。うたうことが得意。
かうなに振り回されることが多々あるが、なんだかんだで楽しんでいる。シーをいろんな意味で尊敬しているらしい。




