46 秘密
「みき、数学教えてぇ」
と、ゆかに廊下から呼ばれた。わざわざ休憩時間、ノートをもって、みきの教室までやってきたのである。教室を出る。
うめも同伴していて、いわく、
「わたしも苦手だから」と、はにかむ。
「ちゃんと教えられる保証はねぇぞ」
みき、いいつつノートを受け取って、ぱらぱら開く。
「複素数が全滅してる……」
「意味わかんないよぉ」
「んー。でも、だいたい惜しいなって感じだぞ」
とりあえず、式とかも見てみる。なにか足りない、なんてことが多々ある。
「これとか」みき、指で差す。「iが足りない」
「アイが足りない~?」
「うん」
「……わたし、みきのこと好きだよぉ?」
「え?」
数秒、理解が遅れる。
「あぁ、うん。うれしいけど、そのアイじゃない。虚数単位のほう」
「キョスータンイの」
「そうそう」
「……ゆかちゃん、わかってる?」
「ううん。ぜんぜん」
「潔いな」みき、苦笑い。「さっき数学だったの?」
「そう。つぎは英語。そのつぎは生物~」
「ふうん……あ、英語か。ゆか、ひとつわかんないやつがあるんだけど」
「え? 数学で?」
「英語で。あ、でも、いまじゃなくていいか。部活で訊けば」
「じゃあ、部活で数学も教えてね~」
「うん。いいよ」
「あ、みきちゃん、みきちゃん」
「うん?」
うめ、自分たちの教室へもどるまえに、
「握津ののさんって、このクラスだったよね?」
と、訊く。
うめの口から、その名前がでるのはちょっと意外で、みき、めずらしいと思いつつ、
「うん」と、頷く。「呼ぼうか?」
「あ、いや、いいんだけど」
「なにかあるの?」
「ううん。なんでも」
気になる。
と、思っていたところに、ののが教室から出てきた。
「あ、ののちゃん」
みき、ついつい呼び止める。
「うん? どうかした?」
笑顔でこっちを見る、のの。で、うめに気づいた。
「あ、このまえの」おどろいたような顔する。
「……どうも」うめ、顔が引きつっている。「高校おなじだったんですね」
ふせ目がちになって、すごくわざとらしい。みき、なんだかおもしろい。
「うめちゃん?」
いっぽうのゆか、ぜんぜん察していないふんいきで、どうしたの、と訊く。
覚悟きめた感じで、うめ、
「あ、えっと、握津さん」
「あれ、わたしの名前、知ってるの?」
「……」うめ、墓穴を掘る。「ま、まぁ、こちらにもいろいろあるので、日曜のことは秘密にしてもらえたら……」
「そうだねぇ」のの、だいたい理解した面持ち。「うん。いわない」
「なにがあったの?」
みき、ダメもとで訊く。
すると、のの、楽しそうに、
「えっとねぇ、けっこうな深夜に」
「握津さん!?」
ゆかいそうな顔つきである。
「まぁ、ふたりの秘密だから」
「そうなんだ」
へんなところで、へんなつながりも、あるものである。
ゆか、終始、よくわからないといった顔をしていた。
【笹田うめ 高校二年生】
人見知りする女の子。
最近は知らない人とも話せるようになってきた。
普段はとてもおとなしいが、たまに闇が垣間見える。ののに謎の弱みを握られ、かなり苦手意識を持ってしまった。




