44 答え方
『恋と渦巻き』と銘打った新曲を、部室で譜面ながめながら、みき、ギター鳴らして、確認していく。なるほど、こういうかんじか。うたってもみる。
「ちょっとむずかしいですね」
と、練習中のシーがいう。キーボードをはじめて一か月も経たないが、器用な子だから、上達がはやい。
とはいえ、初心者にはちがいなく、きゅうに新曲というのも、それはむずかしいだろう。あたりまえである。
「本番までまだ間があるし、ちょっとずつがんばろぉ」
ゆか、シーにつきっきりで教えている。
「ゴールデンウィークも終わりましたし、本格的に文化祭モードですね!」
と、かうな、意気込んでいる。それに、みき、
「そうだね。がんばらないと」と、返す。「あ、そうだ。前田先生から伝言があるんだけど、みんな聞いてくれる?」
練習の手を止めて、部員、みきに注目する。
「八月に、市のコンクールがあるらしくて、参加してみないかって」
「こ、コンクール……」
ねね、ちょっと不安げになる。
「八月のいつくらい?」と、しお、訊く。
「三日か四日くらいだって。けっこうはやめ」
「夏休み入ってすぐかー」
「まあ、そういうのもあるから、考えといてってニュアンスだったけど」
「はいはい! わたし、出たいです!」
やはりというか、かうな、乗り気である。
「ま、応募締め切りはまだ先だから、当分は文化祭が目標になるけど」
「ぜひ善い方向ですすめてください!」
「あはは、いっとく。あ、ごめんね、練習止めちゃって。つづけて」
コンクールの話はいったんやめにして、練習にもどる。みき、自分のパートを見つつ、あ、と思う。なにげなくうたってたけど、これ、うたのパートがちゃんとふたつある。
「ねねちゃん、ねねちゃん」と、呼ぶと、すぐくる。「ダブルボーカルのうただよ、これ」
「え、はい。なにか、へんですか……?」
「えっと……」
へん、といわれると、そうじゃないし。
なにげ、自分がうたうことは決まってたのかと、たぶんあたりまえだったことに、ぽかんとして、またちょっぴりやさしくなる。
「ううん、へんじゃないよ。どっちのパートか、決めようと思って」
みき、シャーペンをとりだして、楽譜に書き込む準備する。
「ねねちゃんが決めていいよ」
「なら、うちは、Bのほうで……」
「そう? だったらわたしがAだね」
譜面にまるをつける。
「あの、みき先輩」
「なに?」
「うち、うたえるんでしょうか……」
どういうことかと、一瞬考えて、思い当たる。
「あぁ、人前で?」
「はい……」
「んー」答え方がなやましい。「きっと大丈夫だよ」
「そうでしょうか」
「うん、だって」
だって、なんだろう。
あ、そうか。
「だって、わたしがいるじゃん」
みき、にっこり笑うと、ねね、はっとしたふうな顔して、それから安心したように、「はい」という。
うたう意味が、なんとなくできた気がした。
【握津のの ボーカル担当】
軽音楽部の一年生。
極度の人見知りで、見ず知らずの他人とは一切口をきけない。
うたうことが好きで、実力もあるが、人前でうたうことがめったにないため、あまり知られていない。食べることとガシャガシャも好き。




