42 喫茶店②
「軽音楽部で、バンド組んでるの?」と、みい子、訊く。
「はい」と、チーズケーキをつつきながら、みき、答える。
「担当は?」
「ギターとボーカルです」
「うたえるんだ」
「へたくそですけど……一年生で、うまい子が入ったので、交代かな、たぶん」
「ふうん」
タッチパッドでいろいろしながら、みい子、作業を続けている。
みき、なんだかんだ出かけると、こういう出会いもあるものなんだな、とか思いながら、チーズケーキを食す。
「ここはサンドイッチもおいしいよ」と、みい子。
「だったら、また今度たのもうかな。常連なんですか?」
「うん。しょっちゅうここにきてる」
「曲つくるために?」
「そう」
「へぇ……」
「ボーカルやめるの?」
「え、どうしたんですか、急に」
「なんか交代とかいってたから」
「どうなんでしょう。よくわかんないですけど」
「あ、そう。うたうの好き?」
「バンドでうたうのは好きですけど」
「じゃあうたえばいいじゃん。ダブルボーカルみたいな」
「あー」
みき、しばし思案する。そういえば、どうなってるんだろう、例の新しい曲。
「ていうか、部員全員でいっこのバンドなの?」
「いまのところその流れですね」
「何人?」
「六人です」
「ほお。にぎやかだね」
「たしかに。大元さんはひとりですもんね」
「そのいいかた、やめようよ……かなしくなってくる」
「あ、すみません」
「謝られるのも困る」
みい子、けっこう快闊に笑って、
「まあいいや。でも、なつかしいね。高校生でバンドなんて」
「なつかしい?」
「うん。わたしも高校のとき、組んでたから、バンド」
「へえ。なんてバンドですか?」
「名前……はちょっと、恥ずかしいんだけど」
「じゃあ、いいです」
「いいんだ……」
「え、あ、もっと掘り下げたほうがよかったですか?」
「もうおそい」
ひととおり作業も終わったのか、みい子、ヘッドホンを外す。で、猫背気味だった背中を、ぐうっと伸ばす。
「……はあ。明日ライブだ」
「なんで嫌そうなんですか」
「仕事になると、なんでも嫌になるよ。まあ楽しいんだけどね」
「どこでライブするんですか?」
「四丁目の」
「『ストック・ホルム』?」
「そう。詳しいね。クソちっちゃいとこなのに」
「なんか、近いうちにイベントがあるって、友達が」
「そう。シンシンキエーのアーティストを集めて、ちょっとしたお祭りする。くる?」
「行けたら行きます」
「ぜったいこないじゃん」
みい子、ケラケラ笑う。みきも思わず笑ってしまう。きみが笑うな。あはは、ごめんなさい。
「あの、けっこうこの店にいるんですよね」
「うん。通い詰めてるよ」
「じゃあ、またこようかな」
「わたしに会いに?」
「はい。そうです」
「あ、そう……」
冗談のつもりだったのが、肯定されてしまった。みい子、ちょっと照れ笑いして、
「ま、いつでもきたら」と、いう。「繁盛するしね。わたし店の人じゃないけど」
「はい。あの、今日はお邪魔しました」
「いいよ」
みき、伝票をとって、立ち上がった。コーヒーとチーズケーキはとてもおいしかった。
【前田あおば 国語教諭】
平川高校の国語教諭。
軽音楽部の顧問を務めている。
いまでこそ温厚だが、昔はトガってたらしい。普段は弾かないものの、ギターがかなりうまい。彼氏はいない。




