41 喫茶店①
ゴールデンウィークに入って、外出してばかりで、めずらしく何もない一日。
でも、みき、どこか落ちつかなくなって、けっきょく、午後から家をでた。
とはいえ、することもなく、そういえば、前々から気になっていた喫茶店を思い出す。ためしに、そこまでいって、なかはすいていた、入ってみる。
一名様ですか、と訊かれて、そうです、と答える。席にとおされると、ホットコーヒーと、チーズケーキを頼んでみる。
その喫茶店はシックな雰囲気で、みき好みだった。いいところを見つけた、と思う。
と、みき、近くの席で、なんだか見たことのある顔を見つけた。美人の、若い女のひとである。どこで見かけたんだっけ、と考えてたら、思い出した。
「オーモト!」
「ちがう、O-Mot!」
すぐに反応されて、訂正された。そう、そうだった。
たしか、メジャーデビューしたばかりのシンガーソングライターで、顧問の前田先生が推していたひと。CDも先生にもらったんだった。
本名は大元みい子といったはず、と、みき、思い出してくる。
「大元さんですよね、やっぱり」
「本名呼びなの?」
にがわらいされた。
みい子、二個はなれた席で、パソコンを開いてなにかやっていた。ちょっと猫背気味で、ヘッドホンをつけているから、遠目からだと若干あやしい。
みきとみい子のあいだ、だれもいないから、それをいいことに、なんとなく、みき、席を詰めてみる。
「あー……えっと、会ったことあるよね、たしか」と、距離をはかりながら、みい子。
「覚えてるんですか?」
「うん。わたしのCD買ってたよね」
買ったというか、もらったのだが、それはいわない。
「はい。曲、聞きました。あの」
「あ、感想とかいいです。つらいんで」
「つらい……」
「面と向かっていわれると、いやじゃない? SNSとかならいいんだけど」
「そういうものなんですか?」
「わたしの場合はそう」
そういうものらしい。
みい子、
「……いいのかな。こんなふつうに話しかけられて、喋っちゃうの」
「だめなんですか?」
「いいんじゃない?」てきとうだった。「いいよ、たぶん。特になにもないし。気付かれたのはじめてだし」
「変装してないのに」
「うん……まあ、有名人でもないし」
「いま、なにされてたんですか」
「新曲つくってたの。聞く?」
「え、いいんですか?」
「これはだめだろうね」
「あ、ですよね」
と、いっていたら、注文の品が出てきた。チーズケーキと、ホットコーヒー。おいしそうである。
「きみ、高校生?」と、みい子、作業をしながら訊く。
「はい。高二です」
「うわ、花盛りじゃん。若くていいな」
「大元さんも若いですよね」
「うん、まあ、二十六だけど。あ、年齢非公開なんだった」
「……」大丈夫なんだろうか、このひと。
「高校ってことは、どこ? ここからだと、天神あたり?」
「いえ、平川です」
「平川っ?」すっとんきょうな声をあげられた。「あ、そう……」
「どうかしました?」
「ううん。なんでもない」
みい子、ちょっと作業の手を止めて、みきを見る。で、
「もしかしてなんだけど、軽音楽部だったり、する?」
「そうですけど……なんでわかったんですか?」
「あ、そう。だからか」
「なにがですか?」
「こっちのはなし。きみ、なまえは?」
「みきです。夏井みき」
名乗ると、みい子、やけににっこりして、
「そう。覚えとく」
と、いった。なんだかみい子だけで納得していて、みき、ちょっとへんな気分だった。
【大元みい子 シンガーソングライター】
O-Motという名義で活動するシンガーソングライター。
喫茶店『テト』でよく目撃される。
高校時代には『アワータイム』というバンドを組んでいて、ボーカルを務めていた。バンドのメンバーとはいまでも深い交流がある。




