39 めがね
部室で、しおが開いたノート、二年生でのぞいていたら、うしろから、かうな、
「なにやってるんですか?」と、訊く。
「歌詞練ってるー」
「おお、バンドっぽい」
「だろー」
「ん~」
いってると、ゆか、ノートをもってひとり立ち上がり、キーボードの練習してたシーのそばまでいく。
「使いますか?」シー、訊く。
「うん。ありがとうねぇ」
シー、いそいそとよける。
で、ゆか、ノート片手に、さらさらとピアノを弾いていく。さわやかで、ノリのいいメロディである。
「サビはこんなかんじ?」
「うん。いいんじゃない」
「じゃあ、こんなかんじで~。ゴールデンウィークのなかばくらいでできるんじゃない」
「頼む」
「あいよ~」
うちあわせ、おわる。
ちょっとおどろいた感じで、かうな、
「あれ、できたんですか?」
「あいつのあたまのなかでな」
「へぇ……ゆか先輩って、すごいんですね」
「そんなことないよぉ」ゆか、にへらと笑う。「あ、シーちゃん。そういえばね、さっきやってたとこ、指使いをね……」
「え? あ、はい」
きゅうに、指南がはじまった。やはりマイペースである。
ただ、教え上手と、シーにはだいぶ好評らしい。開講はゆかの気分次第なので、そこがネックといってはいるが。
「そういえば、ねねちゃんは?」と、みき、かうなに訊く。
「呼び出しされてましたよ。ボランティアの説明があるとかで」
「ああ……お姉ちゃんに巻き込まれたのか」
ねねの姉、ののは、けっこうアクティブで、地域のボランティアとかにもしょっちゅう顔を出しているらしい。
それで、たぶん、ついでに人見知りの妹を連れ出すつもりで、巻き込んだのだろう。ねねのあの引っ込みがちな性格からして、自分で申し込むなんて、あまり考えられないし。
かわいそうに、と思わないでも、ない。
脈絡なく、かうな、
「そういえば、あおば先生なんですけど」
「うん」
「あのひと、彼氏いるんですか?」
「え?」みき、思わず訊き返してしまう。「え、どうだろ……浮いた話は聞かないけど。なんで?」
「ちょっとそういううわさを聞いて……」
「ふうん……」面白そうな話である。「あとで訊いてみようかな」
「答えてくれるんでしょうか?」
「わかんないけど、顔に出やすいから」
みき、もしいるとしたら、と想像してみる。いや、うまくできない。
「あの先生に、彼氏?」
「そんなにへんですか?」
「へんっていうか……うん、へんでしょ」
「え、でも、モテそうなかんじ、ありません?」
「そうかな……」
「めがねって、ポイント高いらしいですよ」
「でも、あのひと最近、たまにコンタクトじゃない?」
「逆にデートの日だからコンタクトなのかも」
「あ、うん。それはあるかも」
みき、ちょっといる気がしてきた。
かえって、わりとそういう詮索されてしまう教師って、たいへんだなぁと、哀れみにちかい感じもある。
「でも、めがねのほうがかわいい気がするんですよね」
かうな、わりと真剣そうな顔でいって、腕をくんだ。
【大矢かうな ギター担当】
天真爛漫な一年生。
恋の話が大好物。
軽音楽部のムードメーカーになりつつある。ギター経験者で、かなり自由奔放な演奏もするが、見ていて楽しいのでよしとされている。




