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朝を歩け。  作者: 維酉
2nd Single【恋と渦巻き】
42/176

37 プライド

「山!」

「川」


 部室のドアが開く。


「これ、いる?」


 部室に入るなり、みき、いう。


「いや、いらないと思う」と、しお。

「おまえがはじめたんだろ」

「一年ちゃんのノリがよくて」

「まあ、いいんだけど」


 すぐなくなるだろうし、この『合言葉』制度。


 みき、かばんをてきとうなところに置いて、そこでひとつ、せきをする。


「風邪?」と、しおに訊かれる。

「ううん。ほこりっぽいじゃん、この部屋」

「掃除しなきゃねー」

「いまするか」

「思い立ったが吉日ってね」


 教室隅の用具ロッカーから、みき、ほうきを取り出す。で、掃き掃除をはじめた。


 ちょうどそのころ、ノックがして、しお、


「山!」

「えっと、川~」と、返ってくる。


 部室に入れてもらったゆか、にへへとわらいながら、「ちょっと忘れてたよぉ」という。


「なんか、入口に『ノックしてね』って書いてあったから、思い出したけど~」

「わたしもそのクチだった」と、みき。

「奇遇だねぇ」

「実はあたしも」

「おまえさぁ」


 と、またもノックの音。こんどは、けっこう力強い。なんとなく、だれかわかる。しお、


「山!」

「川!」


 やはり、かうなだった。一年生のなかでは、一番乗りである。


「なんか、いいですね! 秘密基地みたいな感じで」

「そうだろー、そうだろー」

「てきとうなやつ……」

「うるせい」

「お掃除、てつだおうかぁ?」

「うん。おねがい」

「わたしもやります」

「あたしは門番しなきゃだからさ」

「必要ない」

「ざんねん」


 とかいってると、ノックの音。ほら、いるじゃん、門番。うっせ。


「ミシシッピ!」

「えっ、えっと」

「アカミミガメ」


 しお、『アカミミガメ』で正解らしく、部室を開ける。ねねとシーがいた。たぶん、ミシシッピといわれてきょどきょどしたのが、ねね。躊躇なく答えたのが、シー。


「困らせてやんなよ……」

「パスワードの更新は大事だぜ」

「はい、ほうき」

「チャンバラ?」

「ばかかおまえは」

「あ、今日は、掃除の日ですか……?」

「そういうわけじゃないけど、そういう流れになってる」

「ねねちゃん」と、まじめな顔で、シー。「埃ってなんだろう」

「え?」ねね、きょとんとする。「うーん? プライドともいうよね」

「え、それ本気でいってる?」

「え?」

「あれ、わたしがおかしいの?」

「みき先輩、シーちゃんたまに不思議なこというので」

「うん、シーちゃんも不思議なんだけど、ねねちゃんも不思議だよね、いまの」

「ここで、斬る!」

「え、なんでぇ?」

「おいしお、わたしが見てないからってゆかを困らせんな。ちゃんと掃除しろ」

「はーい」

「プライドを……掃き掃除……?」

「どうした」

「シーちゃん、たまに哲学するので」

「なんか……うち、へんなこと、いっちゃったのかな?」

「……」


 気にしないのがいちばんだ。みき、そう悟ってしまう。


「よし、かうなちゃん。掃除しよう」

「はい!」


 帰るころには、部室はすっかりきれいになっていた。おもに、みきとかうなのはたらきで。



【夏井みき ギター/ボーカル担当】


 軽音楽部の部長。

 年下に好かれやすい。


 頼もしい性格で人づきあいもよく、友達がおおい。校内八割の生徒はみきの知り合い。

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