37 プライド
「山!」
「川」
部室のドアが開く。
「これ、いる?」
部室に入るなり、みき、いう。
「いや、いらないと思う」と、しお。
「おまえがはじめたんだろ」
「一年ちゃんのノリがよくて」
「まあ、いいんだけど」
すぐなくなるだろうし、この『合言葉』制度。
みき、かばんをてきとうなところに置いて、そこでひとつ、せきをする。
「風邪?」と、しおに訊かれる。
「ううん。ほこりっぽいじゃん、この部屋」
「掃除しなきゃねー」
「いまするか」
「思い立ったが吉日ってね」
教室隅の用具ロッカーから、みき、ほうきを取り出す。で、掃き掃除をはじめた。
ちょうどそのころ、ノックがして、しお、
「山!」
「えっと、川~」と、返ってくる。
部室に入れてもらったゆか、にへへとわらいながら、「ちょっと忘れてたよぉ」という。
「なんか、入口に『ノックしてね』って書いてあったから、思い出したけど~」
「わたしもそのクチだった」と、みき。
「奇遇だねぇ」
「実はあたしも」
「おまえさぁ」
と、またもノックの音。こんどは、けっこう力強い。なんとなく、だれかわかる。しお、
「山!」
「川!」
やはり、かうなだった。一年生のなかでは、一番乗りである。
「なんか、いいですね! 秘密基地みたいな感じで」
「そうだろー、そうだろー」
「てきとうなやつ……」
「うるせい」
「お掃除、てつだおうかぁ?」
「うん。おねがい」
「わたしもやります」
「あたしは門番しなきゃだからさ」
「必要ない」
「ざんねん」
とかいってると、ノックの音。ほら、いるじゃん、門番。うっせ。
「ミシシッピ!」
「えっ、えっと」
「アカミミガメ」
しお、『アカミミガメ』で正解らしく、部室を開ける。ねねとシーがいた。たぶん、ミシシッピといわれてきょどきょどしたのが、ねね。躊躇なく答えたのが、シー。
「困らせてやんなよ……」
「パスワードの更新は大事だぜ」
「はい、ほうき」
「チャンバラ?」
「ばかかおまえは」
「あ、今日は、掃除の日ですか……?」
「そういうわけじゃないけど、そういう流れになってる」
「ねねちゃん」と、まじめな顔で、シー。「埃ってなんだろう」
「え?」ねね、きょとんとする。「うーん? プライドともいうよね」
「え、それ本気でいってる?」
「え?」
「あれ、わたしがおかしいの?」
「みき先輩、シーちゃんたまに不思議なこというので」
「うん、シーちゃんも不思議なんだけど、ねねちゃんも不思議だよね、いまの」
「ここで、斬る!」
「え、なんでぇ?」
「おいしお、わたしが見てないからってゆかを困らせんな。ちゃんと掃除しろ」
「はーい」
「プライドを……掃き掃除……?」
「どうした」
「シーちゃん、たまに哲学するので」
「なんか……うち、へんなこと、いっちゃったのかな?」
「……」
気にしないのがいちばんだ。みき、そう悟ってしまう。
「よし、かうなちゃん。掃除しよう」
「はい!」
帰るころには、部室はすっかりきれいになっていた。おもに、みきとかうなのはたらきで。
【夏井みき ギター/ボーカル担当】
軽音楽部の部長。
年下に好かれやすい。
頼もしい性格で人づきあいもよく、友達がおおい。校内八割の生徒はみきの知り合い。




