35 リッケンバッカー
昼休憩、みき、かうな、シーで集まって、一年三組の教室の、ちかくまでいく。で、シーが、握津ねねは教室にいると伝えると、
「じゃあ、だれがいく?」と、みき。
「あれ、先輩じゃないんですかっ?」
にやけ顔のかうな。みきがさっき、「ねねちゃんには秘密の任務だからね」というと、どうしてか、テンションが上がったらしい。
みき、
「いってもいいけど……へんじゃない? 上級生だし」
「じゃ、わたしもへんですね。クラスちがいますから」
「となると、あたし?」
シー、「なるほど」とつぶやいて、逡巡もなしに教室にはいっていった。みき、かうな、それを遠目でのぞいている。
で、教室にはいったシーは、ねねの前の席に座って、顔をあわせる。ねね、固まったのが、遠目からでもわかる。
なんだか、みきには、既視感があった。そうだ、初めてうめとはなしたときも、ああいう反応をされた気がする。
ねね、固まったままで、動かない。目だけは泳いでいるみたいである。かくいうシー、なぜか、はなしかけているかんじがしない。
やがてシーが立ち上がって、みきたちのところにもどってきた。それで、
「なにをはなせばいいんでしょう?」と、いった。
「今日はいい天気だね、みたいなっ」
「あぁ、そっか」
ぜったいに使い物にならない会話法だったが、シー、納得した面持ちで、またねねのところへ向かった。
シー、またも、ねねの目の前に座り込む。で、こんどは、はなしかけているみたいである。ほんとうに「今日はいい天気だね」といったのだろうか。
どうやら、会話は続いているようすで、ねね、やはり困惑した表情のままだが、けっこうしゃべれている。
シーは、クールなふんいきだが、意外ととっつきやすいので、それもあって、打ち解けられているのかもしれない。
やがて、シーがもどってきた。いうに、
「放課後、部室につれていきます」
「おお、よかった」
ひとまず、クラスメイトとの約束は果たせそうである。
「ありがとね、シーちゃん」
「いえいえ。いまからいっしょにごはんたべます。牛ちゃんも、どう?」
「うん、いくいくっ」
「じゃ、待ってる」
「わたしは教室帰るよ。依頼主にも報告しなきゃだし」
「あ、先輩。ねねちゃんは、先輩のファンらしいです」
「へ? あ、そうなんだ……」
「サイン、考えておくことをおすすめします」
「えぇ……」
そんなことをいわれても、こまる。
ひとまず、ふたりに別れを告げて、みき、二年の教室に向かう。とちゅうで、お手洗いにいっていたうめと会った。
うめが、急に、
「しりとり」といったので、
「リッケンバッカー」と、返す。
「そのばあいは、『か』? それとも、『あ』?」
「『か』にしよっか」
「じゃあ、カエル」
「いうと思った」
「あ、やっぱり?」
「ていうか、なんで急に?」
「なんか、さっき、しおちゃんにされたから、わたしもみきちゃんにしようと思って」
「しりとり?」
「そう」
「……うめちゃんって、はなしやすくなったよね」
「へっ?」
きょとん、とした目で見られる。それから、「たしかに」と、へんに納得された。ちょっと失言だった気もするが、とくに気分を害したわけでもないようなので、よかった。
【握津ねね 高校一年生】
かなり恥ずかしがり屋な女の子。
うめより重症。
みきと同じ中学校の出身。実はむかしからみきのファンらしく、軽音楽部にあこがれていたが、勇気を出せないでいた。




