33 観光
新入部員が入って、三日、金曜日の放課後。なんだかちょっとずつ、新メンバーのせいかくもわかってきて、雑談も、気楽なかんじになりつつある。
演奏については、かうな、ギターの経験者というだけあって、上手だった。みきが見る限り、あまり問題はなさそうである。
で、シーのほうはといえば、まいにち、キーボードの練習である。ゆか、つきっきりで、マンツーマンでずっと教えている。
大変そうだけれど、シーがやりたいといったので、まあ、いいのだろう。みき、個人的には、ゆかがキーボードになってもいいと思うのだが、ふたりがいいなら、このままでもかまわない。
なににせよ、いまは、六月下旬の文化祭に向けて、やってみるしかない。シーの上達速度も、けっこう早いので、きっとだいじょうぶだ。
五時半くらい、いったん休憩にして、みき、楽器をおく。
すると、かうなが、
「先輩!」と、飛んできた。「今日の朝ごはんはなんでした?」
「え?」
へんなことを訊くものである。というか、知ってどうするのか。
とりあえず、
「トースト」と、答えておく。「どうしたの、急に?」
「いえ、ちょっとした調査です」
「ふうん」
「しお先輩は、なにたべました?」
「んー。なんだっけ、みき」
「知らねーよ」
「わたしはねぇ、目玉焼きと、小松菜のソテーと……」
「あ、思い出した、米とみそ汁とたまごやきだ。いつもといっしょだ」
「どうしてそれ忘れたんだよ」
「和食派なんですね。ゆか先輩は洋食……」
「どうしたの、牛ちゃん」
「シーちゃんはパンだったよね」
「そうだけど。菓子パン」
「それ、調べてどうするの?」
「意味はとくにありませんっ」
笑顔で断言された。みき、
「そっか」としか、答えられない。「ちなみに、かうなちゃんは?」
「わたし、今日たべてないです」
「あ、そう」
なんだそりゃ。
「だめだよ、牛ちゃん。ちゃんとたべないと」と、シー。
「時間が……」
「だめ」
「あう。明日はたべてきます」
「休みじゃん」
「そうだったっ」
「あ、そっか。週末かー」
「そういや、ゴールデンウィークも近いんじゃねーの」
「再来週ですね」
「なにすっかなー」
「おまえ、どうせひまだろ」
「おーよ」
「じゃあ、島いきましょうよっ!」
「島? どこの?」
「九州ー?」
「島だけど。それだと本州とかもそうだし」
「離島ですよっ。猫がいっぱいいる島とか」
「あ、いいねぇ、それ」
「日帰り?」
「できますよっ」
「いいんじゃない。しおも、ずっと引きこもってちゃあぶないし」
「あぶないってなんだよ」
「じゃあ、またこんど詳しく決めましょうっ」
まさか観光にいくことになるとは、それも離島……とか、みき、思いつつも、おもしろそうではある。
かうな、ちょっと上機嫌になって、跳ねている。わかりやすい子である。で、はしゃぎ気味なのを、シーにたしなめられていた。みき、休憩を切り上げて、ギターを手にした。
【前田あおば 軽音楽部顧問】
国語よりも音楽が好きな国語教諭。
軽音楽部の顧問。
高校生のころにはバンドを組んでいたようで、人前での演奏経験もけっこうある。コンクールでは上位入賞したとか。




