32 生物
「新入部員!」と、うめ、我がことのように驚いて、笑顔になる。「よかったね、何人?」
「ふたり」
「へぇ」
ちょうど、朝、登校したら、校門前でうめとばったり。だから、並んで歩いて、話しているところで、新入部員のこともいってみた。
「ひとりはギター経験者なんだって。もうひとりは、その子のともだち」
「みきちゃんたちのバンドに入るの?」
「そうなると思うよ」
「じゃあ、ギターがひとり増えて、ん。もうひとりはなんの楽器やるの?」
「どうしようかなって。いまから決めるんだけど」
「ボーカル、ギター、ベース、ドラムがいて……だったらあとは、キーボード?」
「うん。たぶんそう」
とはいえ、キーボードをやるなら、明らかにゆかが適任である。なにせ、むかしっからピアノをやっていて、ドラムは、たのしそうというふんわりした理由で選んだ楽器なのである。
まあ、それでも、いまではドラムも、ピアノくらい大好きらしいが。
「なんか、すごい個性的なふたりでね」
「そうなんだ。どんな子?」
「子犬みたいに走り回ったり飛び跳ねたりする子と、すごくおとなしいんだけど、しょっちゅう毒舌な子」
「対照的だね」
「ほんとにね」
まるでちがうタイプである。でも、ふたりはすごく仲もよさそうだし、それに、ゆかも、しおも、気に入ってるみたいである。
「おもしろそうだね、軽音楽部」
「はいる?」
「へっ? あ、うーん、卓球部もいそがしいし……」
「いつでも歓迎だよ」
「あはは、ありがとう。そういえば、うちにも来たよ、新入部員」
「どのくらい?」
「八人だったかな」
「けっこうだね」
「そうでもないらしいよ。もっとかき集めるって、先輩が意気込んでる」
「ひとりくらい、うちにくれない?」
「どうだろ。わたしの一存では、少々、きびしいかと」
「ざんねん」
「なんか、しおちゃんっぽい」
「へ? あんなのとは似ても似つかないよ」
「そうかな? けっこう似てると思うけど」
「どのへんが?」
「さっきの『ざんねん』とか、いかにもしおちゃん、いいそうだし。たまに面倒くさがるところとか」
「うつってんなあ、しお菌」
「細菌類になっちゃったの」
「知らなかっただろうけど、あいつ、シアノバクテリアなんだよ」
「原核生物なんだね」
すごくてきとうにいったが、シアノバクテリアは病原体でもなんでもない気がする。
うめ、階段をのぼりながら、あくびをひとつ。どこか眠そうに見える。みき、ちょっと間をおいて、
「寝不足?」と、訊いてみる。
「うん。生物の小テストがあるとか、急にいわれて」
「あー。大変だね、生物選択。担当が森岡でしょ」
「そう。小テスト多いし、急だし、こまる。みきちゃんは、物理だったっけ?」
「物理は気楽だよ。むずかしいけど」
「あ、たしかに、むずかしそう。なんか、自由落下と投げ下ろしとか、なんとか」
「まあ、なんか、よくわかんないけど」
ちなみに、二年に上がるときの科目選択で、しおは文系、ゆかはうめと同じ、理系の生物コースを選んでいた。
なんでも、ゆか、よくわからないうちに調査書を提出したらしくて、いつのまにか生物選択になっていて、数学に苦しんでいるんだとか。
とはいえ、あいつの進路希望は理系の大学だったので、結果オーライというか、なんというか。でも、やっぱり、ばかである。
「……うめちゃん、ゆかを頼むよ」なんとなく、不安になった。
「うん? わかった。みきちゃんも、がんばってね」
「ありがと」
うめの教室のまえで、別れて、みき、自分のクラスまで歩く。とちゅう、ほかの友達に話しかけられて、さらりと手を振った。
【陈诗涵 高校一年生】
クールで背の高い女の子。
かうなとは幼馴染。
日本人と中国人のハーフで、幼い頃は中国にいた。かうなのことを牛ちゃんと呼んで許される唯一の存在。




