30 付き合ってください
新歓の翌日、みき、軽音楽部の部室まできてみると、だれかいた。ゆかでも、しおでもない。みたことのない女子である。たぶん一年生だ。それが、ふたり。
片方は、かみの毛をお団子に結った、背の低い子だった。部室につかってる空き教室を、窓をはさんで、じぃっとみつめている。
もう片方、ロングヘアの女の子で、お団子の子のかみの毛を、ぼーっとみている。なんだか、なにを考えているのかよくわからない目をしていて、顔立ちは、日本人というより、びみょうに、外国人っぽい。中国とか、そこらへん。
で、そのロングヘアの子が、みきに気づいた。すると、お団子の子の肩を、ちょちょんとつっつく。
お団子の子も、みきに気づく。
気づくなり、驚いた顔したあとで、いっぱいに笑みを浮かべて、で、飛びついてきた。
みき、思わずそれをよけると、お団子の子は、「わあっ」とさけびながら通り過ぎて、勢いそのまま、とおくまでいく。
なんだ、あの子。
「ごめんなさい、先輩」
「うわっ」
こんどは、みきが驚いた。いつのまにか、もうひとりのロングヘアの子が、まうしろに立っていた。
で、その子は、あんまり表情を変えずに、まがおで、
「なんというか、牛ちゃんは、あんまりデキがよくないので」
と、淡白にいった。
けっこう、辛辣である。
「ねえ、牛ちゃん。あいさつ」
「そうだった」飛びかかってきた女の子がもどってきた。「あの、『ハイルーフ』の、ボーカルさんでしたよね」
ハイルーフ。
みき、ちょっと、びくっとした。ひとから、自分たちのバンド名をいわれるの、なにげに、はじめてかもしれない。
まあ、さておき、お団子の子、餌を目の前にした子犬みたいな目をして、みきを見つめている。とりあえず、うなずいておく。
「やったっ。会えたよ、シーちゃん!」
そういうと、お団子の子、ロングヘアの子にハイタッチを要求する。すっと腕を上げる、ロングの子。直後、すごい勢いのハイタッチがあって、ぱあんと、痛そうな音がきこえた。
でも、かくいうロングの子、まるで痛そうにするそぶりがない。
「……痛くない、それ?」と、つい訊くと、
「慣れました」と、ため息まじりで答えられた。
「あ、あのっ」お団子の子の声。「昨日の歓迎会の演奏聞いて、感動しましたっ! なんかすごかったです。キラーンってかんじで!」
「あ、ありがと」
キラーンってかんじ。
「それで、ですね、なんというか、なんというか……!」
「好きです」
「そうですっ、好きです先輩! 付き合ってください!」
「へあっ!?」
急に、まぬけな声が聞こえてきた。みると、ゆかがいる。そのうしろに、しお、よくわかってなさそうな表情で、みきを見る。
残念ながら、みきもわかっていないので、見られても、困った。
お団子の子も、ふたりに気づいたらしい。で、あわてたように目を回して、
「いや、これはちがくて、ことばのあやで……」
と、必死に弁解している。
ことばのあやとは、はたしてなんなのか。
「まあ、たぶん、勢いで出ちゃったんだと思います」
ロングヘアの子が、冷静にいった。みき、苦笑い。ほんとう、へんな子たち。
「えーっと、とりあえず、部室はいる?」
鍵をちゃらりと鳴らして、みき、そういってみた。お団子の子は、ぶうんと音が鳴りそうなくらい、首を縦に振った。
【ハイルーフ】
平川高校軽音楽部のバンド名。
発案者はゆか。
文化祭を目標に、日々練習を重ねている。リーダーはみきで、いまのところメンバーは三人である。




