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朝を歩け。  作者: 維酉
2nd Single【恋と渦巻き】
34/176

29 つつがなく

「つつがなく」


 と、みき、緊張したおももちでいうと、しお、


「だいじょーぶだって」


 と、能天気なかんじでいう。まあ、それに、救われなくもないのだが、いかんせん、本番五分前、もうちょっと緊張感あっても、とは思う。


「物理部、えげつないよぉ」


 ステージのすそから、物理部のステージ発表を見ていたゆか、そうこぼす。

 なにやら、物理の実験をしているみたいである。砲丸を担いだ男子生徒がちらりと見えたが、いったい、なにをするのか。


 直後、鈍い音が聞こえてきて、一年生がざわめきだした。なにが起こった。


「なんか、実験失敗してるぅ……」

「なんの実験?」

「わかんない……」


 失敗ということは、なにか砲丸でやろうとしたのに、あやまって床に落としたというところだろうか。それ、床は無事なのか。


 あわてた声が聞こえる。進行役みたいな生徒が、「まあ、失敗は成功の母といいます」と、まるでフォローになってなさそうなことをいった。それがへんにおもしろくて、つい、笑ってしまう。


 で、そのあとすぐに、物理部の発表はおわったらしい。いちおうの拍手が聞こえてくる。


「つぎ、軽音楽部さん、準備しましょう」


 と、生徒会の行事担当にいわれて、アンプやら、ドラムやら、リハできめた位置に。軽音楽部のつぎに控えている、演劇部のともだちも、手伝ってくれる。


 三分足らずでセッティングがおわって、みき、ステージ目前にすわった新入生たちをまえにして、スタンドからマイクをはずして、


「みなさん、こんにちは」と、あいさつする。「えっと、わたしたちは平川高校軽音楽部の……」


 と、前口上、「それでは聞いてください」まで、なんとか噛まずにいえる。で、目配せ。しお、なにくわぬ顔で、ゆか、やっぱり緊張している。


 いつもどおりだ。よし、やれる。


 みき、すうっと、やわらかな空気を吸った。




   ◇




 新歓のステージはうまくいって、まさに、「つつがなく」というかんじ。ほっとひと安心である。


 放課後、部室にあつまって、さんにん。すこし遅れて、前田先生がやってくる。体育館の、椅子やらシートやらのかたづけをしていたらしい。


 で、前田先生、はいってくるなり、


「よかった!」


 と、満面の笑みでいった。みき、しお、ゆか、それを聞いて、ハイタッチ。


「これで新入部員とか、入ればいいね」

「あ、そうか。そういうのもあった」

「どんなこがくるかなぁ」

「どんなこにきてほしい?」前田先生、こころなし、たのしそうである。

「かわいいこかなぁ」

「いいね。あ、これ、入部届ね」

「ありがとうございます」


 数枚の入部届をわたされた。きてくれるんだろうか。よくわかんないけど。


 ……ふむ、新入部員か。こんどは文化祭、とかんがえていたけれど、そのまえに、そういうこともかんがえないと。


 みき、準備のいい先生からもらった、入部届をながめながら、ちょっと期待した。



【前田あおば 国語教諭】


 軽音楽部の顧問でもある。

 四月で教員生活三年目に突入する。


 四月からの抱負は『先生らしい行動を心がける』だが、正直いうと自信がないらしい。

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