29 つつがなく
「つつがなく」
と、みき、緊張したおももちでいうと、しお、
「だいじょーぶだって」
と、能天気なかんじでいう。まあ、それに、救われなくもないのだが、いかんせん、本番五分前、もうちょっと緊張感あっても、とは思う。
「物理部、えげつないよぉ」
ステージのすそから、物理部のステージ発表を見ていたゆか、そうこぼす。
なにやら、物理の実験をしているみたいである。砲丸を担いだ男子生徒がちらりと見えたが、いったい、なにをするのか。
直後、鈍い音が聞こえてきて、一年生がざわめきだした。なにが起こった。
「なんか、実験失敗してるぅ……」
「なんの実験?」
「わかんない……」
失敗ということは、なにか砲丸でやろうとしたのに、あやまって床に落としたというところだろうか。それ、床は無事なのか。
あわてた声が聞こえる。進行役みたいな生徒が、「まあ、失敗は成功の母といいます」と、まるでフォローになってなさそうなことをいった。それがへんにおもしろくて、つい、笑ってしまう。
で、そのあとすぐに、物理部の発表はおわったらしい。いちおうの拍手が聞こえてくる。
「つぎ、軽音楽部さん、準備しましょう」
と、生徒会の行事担当にいわれて、アンプやら、ドラムやら、リハできめた位置に。軽音楽部のつぎに控えている、演劇部のともだちも、手伝ってくれる。
三分足らずでセッティングがおわって、みき、ステージ目前にすわった新入生たちをまえにして、スタンドからマイクをはずして、
「みなさん、こんにちは」と、あいさつする。「えっと、わたしたちは平川高校軽音楽部の……」
と、前口上、「それでは聞いてください」まで、なんとか噛まずにいえる。で、目配せ。しお、なにくわぬ顔で、ゆか、やっぱり緊張している。
いつもどおりだ。よし、やれる。
みき、すうっと、やわらかな空気を吸った。
◇
新歓のステージはうまくいって、まさに、「つつがなく」というかんじ。ほっとひと安心である。
放課後、部室にあつまって、さんにん。すこし遅れて、前田先生がやってくる。体育館の、椅子やらシートやらのかたづけをしていたらしい。
で、前田先生、はいってくるなり、
「よかった!」
と、満面の笑みでいった。みき、しお、ゆか、それを聞いて、ハイタッチ。
「これで新入部員とか、入ればいいね」
「あ、そうか。そういうのもあった」
「どんなこがくるかなぁ」
「どんなこにきてほしい?」前田先生、こころなし、たのしそうである。
「かわいいこかなぁ」
「いいね。あ、これ、入部届ね」
「ありがとうございます」
数枚の入部届をわたされた。きてくれるんだろうか。よくわかんないけど。
……ふむ、新入部員か。こんどは文化祭、とかんがえていたけれど、そのまえに、そういうこともかんがえないと。
みき、準備のいい先生からもらった、入部届をながめながら、ちょっと期待した。
【前田あおば 国語教諭】
軽音楽部の顧問でもある。
四月で教員生活三年目に突入する。
四月からの抱負は『先生らしい行動を心がける』だが、正直いうと自信がないらしい。




