28 おそい
春休みがすぎて、登校初日。始業式のあと、学級開き。担任の先生のはなしをきいて、配布物をもらって、十二時前くらいに終わる。
すぐ帰らずに、一緒のクラスになった友達とだべっていたら、来客である。廊下のほうから、名前を呼ばれた。
「みきちゃーん」と、声をきくに、うめである。
「みき~」ゆかもいる。
ちょっと呼ばれてるから、と友達にさよならいって、かばんをもって、ふたりのところへ。
「よっ」
「みきちゃんは、四組?」
「そう。ふたりは二組だっけ」
「そうなんだよぉ。うめちゃんとおんなじクラス」
「よかったな……問題はしおか」
「あはは……ひとりだもんね」
「見に行ってやるか」
たしか、一組だったはずである。さんにんで、しお、どんなふうかを覗きにいってみる。
一組にいくと、教卓のところで、しおが前田先生と話していた。
「おーい、しおー」
呼んでみると、すぐにこっちを向いた。で、
「おそい」といわれた。
「まあまあ、玉原さん」前田先生がなだめる。
「一組の担任って、先生だったんですね」
「うん。そう」
「じゃあ安心か」
「安心ってなんだ、安心って」
「べつに」
しお、ほっぺをふくらまして、そっぽを向く。あんまり見せない仕草である。おもわず、
「なにやってんの」といってしまう。「おいおい~。なにやってんの? おいおい」
「やめろ、ほっぺ触るな!」
「おいおい~」
「わたしもやる~」ゆかも入ってきた。
「あはは……」うめ、苦笑い。
ひととおり遊んだところで、よし、と、みき。
「きょうって部活できましたっけ、先生」
「うん? できるよ。楽器、もってきてるんでしょ。鍵、いるよね」
「うん」と、しお。
「敬語な。『うん』じゃなくて、はい」
「はい」
部活、やることに決まった。うめはといえば、なにもないらしく、
「あ、じゃあ、部室きてよ~」とゆかにねだられた。
うめ、ちょっと悩んで、
「……お邪魔しようかな」
「なら、三人とも先に部室いってて。わたし、先生に鍵もらってくるから」
「りょーかい」
みき、前田先生と国語研究室のほうへ歩いていく。さんにんは、もう部室のほうへ向かった。
あ、そういえば、と思い出して、みき、
「O-Motですけど」と、切り出す。「あのあと、本物に会っちゃって」
「ん、あぁ。本物にね。へんな人だったでしょ」
「え? あ、へんっていうか……おっちょこちょい?」
「いい得て妙」
なんだか知り合いみたいな話し方である。もしかして、と訊いてみようとしたら、すでに国研の前で、先生、すぐ入っていく。
まあ、気のせいだろう。いまのところは、そうしておく。
国研を出てきた先生から、部室の鍵と部活動ノートをもらう。ありがとうございます、といって、すぐ部室に向かう。
部室の前で、しお、ゆか、廊下に直ですわっていた。その横で、うめは立ちながら待っている。
「おまたせ」
「おそい」
「ごめんね、うめちゃん。待ったでしょ」
「あ、ううん。だいじょうぶだよ」
鍵をあけて、なかに入ると、ちょっぴり寒かった。どうぞ、荷物はてきとうな机のうえで――と、うめにいって、みき、楽器をだす。
「そういえば、新歓、二年生は見れないんだって」
「そうなの~? 残念だねぇ」
「……じゃ、特別コンサート」
「いいの?」
「いーよ。本番みたいにやりたかったし」
「聞いてほしいって、どうしてすなおにいえないかなー」
「おまえにいわれたかねーわ」
しお、ケタケタわらう。さんにん、ちょっと練習してから、観客がひとりの部室で、目配せ。いけるよね。いける、だいじょうぶ。
みき、ギター。春の日差しが、指の影をあざやかに落としていた。
【笹田うめ 高校二年生】
人見知りする女の子。
四月で二年生になった。クラスはゆかと同じ。
四月からの抱負は『凡事徹底』で、みきのような人物を目指したいらしい。




