26 負けん気
「あ……ねこだ」
「え、どこ~?」
「あっこ」
みき、指さしたところに、白黒のねこ。柄が、白ベースで、黒い斑点がぽつぽつあって、まるで牛みたいなやつ。で、ふとっている。
それをみて、ゆか、
「あれはねぇ、モチタ」
「へぇ。モチモチしてんのな」
「そうだよぉ。あとね、あれがねぇ」
と、モチタとやらについてきた、もう一匹の茶色いねこ、指さして、
「チャイロ」
「……茶色いな、たしかに」
モチタでひねりがないと思ったが、チャイロはもっとひねりがなかった。
戸殿家、離れの、防音室。思ってたより広いし、楽器とか、機材とか、プロ仕様で、ちょっと想像以上だった。
で、いまはそこの入り口のまえにいて、戸殿家の庭をながめながら、休憩中である。庭に、野良猫とか、まいにちのように入り込んでくるらしくて、それを聞いて、みき、ふと疑問におもう。
「そういえば、ゆかの家って、どうしてねこを飼わないの?」
「飼えないんだよぉ。お父さんが、ねこアレルギーで」
「あ、そうなんだ」
「お父さんも、ねこ、大好きなんだけどねぇ」
「好きなのに触れないって、かなしいな」
「うん……」
ゆか、けっこう深刻そうにうなずく。で、ちょっとたちあがって、ねこのほうに歩きだす。
「モチタ、かわいい?」
「チャイロのほうが好き~」
「あ、そう……わたしもトイレ借りていい?」
「いいよ~。場所、わかる?」
「うん」
みき、離れからたち去って、主屋のほうに入る。たしか、ここらにあったはずと思って、廊下を歩いてたら、しおがいた。
「お、みき」と、しお、手を掲げる。「おにーさんに会いにきたの?」
「ばかか。トイレどこだっけ」
「そこ」
「ありがと」
「うめに写真おくろうかなー」
「なんの?」
「おにーさんとみきのツーショット」
「もらっても困るだろ……てか、いつそんなもの」
「ついさっき。いる?」
「いや、べつに……」
「送っとくわ」
「おう……」
◇
「やれる?」
「だいじょーぶ」
「わたしも~」
「ん。じゃ、合わせてみよ」
みき、ちょっと咳払い。それから、ギター。どうだろう、うまく弾けてるかな。けっこう練習したはずなのに、不安にはなる。
でも、それらぜんぶ、ふたりが音でかき消してくれて、すきだ。
だいたい、自分たちの音、やりながら、客観的にきくっていうのがむずかしくて、いっつも、すきとか、ここいい、とかおもっちゃう。あまりいわないけど、やっぱり、このバンドでつくる曲は、自分がいちばんすきな自信が、みきにはある。
でも、しお、ゆか、ふたりともそれは一緒で、だから、このバンドがすきだ。
ひととおり終わって、みき、あたまのなかで、演奏のふりかえり。出だし、もうちょっと説得力ある音が出せたらいいけど。あと、サビ、声出てなかったかなあ。
「みき、総評」と、しお。
あ、どうしよう。いったん「そうだな」といってみるも、実をいうと、これ、毎回、困っている。いちばん最初に出てくるのが「よかった!」で、でも、それじゃどうかとおもうし、考えて。
「……うん。よかった」
結局、なんにも出てこなかった。
「めずらしー」と、しおにいわれる。
「あー、じゃあ、しいていうなら、しお。次の練習まで、ちゃんと基礎練もやっとけよ」
「へーい」
「やる気」
「元気ー」
「負けん気~」
……なんだそれ。おもいつつも、口には出さない。さっきの音の余韻が、まだ部屋に残っているかんじがした。
【戸殿ゆか ドラム担当】
四月で高校二年生になった。
天然で、おっとりしているマイペースな子。
四月からの抱負は『がんばる』で、具体的な内容は検討中らしい。




