24 トースト
朝は、パンに限る。いいかんじに、ちょっと焦げるくらいにこんがり焼いたトーストが、とくにいい。
で、それに、マーガリンを塗る。透明のコップに牛乳をいれて、白いお皿にのせたトーストといっしょに、食卓に並べる。テレビをつけると、午前八時きっかりの天気予報。
今日は晴れらしい。どこかに出るかな、とか考えてたら、天気予報がおわって、かわいい顔のアナウンサーが雑多なニュースをよみだす。それを聞き流しながら、いつもより、ちょっと遅めの朝食をとる。
さくり。
トーストに歯を立てると、いい音が聞こえる。
奥歯でパンを噛みながら、カーテンからさしこむ朝の陽ざしを満喫する。牛乳をのむ。
からだのすみずみまで満たされていく、そんなかんじ。
「……いいな、春休み」
みき、思わずぽつりとつぶやく。のんびりできるって、すばらしい。
ごはんをたべたら、なにしよう。課題もあるけど、そのまえに、顔を洗って、そうだな。ちょっとからだを動かそう。ラジオ体操でもしよう。なんとなく。
トーストにもうひとくち、かじりつく。うん、うまい。よく焼けてる。焦げすぎず、かといってふわふわすぎない、いい塩梅だ。これはちょっと、そこらのおしゃれな店に並べてもいいとか、思う。
時間がゆったりすぎていく。こんなこと、さいきん、あまりなかった気がする。学校がある日は、まいにち、さっさとごはんを食べて、お父さんとおなじ時間に家を出て……。
思えば、お父さんが家を出るより遅く起きるの、すっごくひさしぶりかも。みき、そう気づいて、ちょっとふしぎな気分になった。
朝ごはん、たべおわったら、食器をすぐに洗ってしまう。で、顔を洗って、リビングに戻る。スマートフォンで、ラジオ体操、検索かけて、音源をみつけた。流してみる。
『腕を前から上にあげて、大きく背伸びの運動……』
ぐいっと、からだを伸ばしてみる。お、これ、けっこうきつい。ひさしぶりにやってみると、やはり、からだが固いのがわかってしまう。
第一がおわって、第二はどうしようかな、と思ったら、間髪入れずにそのまま流れてしまった。しかたなく、続ける。
第二のうごきは、意外とはげしい。なんか、やけに跳んだり、腕をふりまわしたりする。しっかりからだをうごかすと、これが、けっこうな運動になる。ちょっと汗がでてきた。
深呼吸、これでおわった。汗をかいたので、寝間着をきがえる。そのとちゅうくらいで、携帯に通知がはいる。見てみたら、ゆかから、写真が送られてきている。
どうやらいまは、イタリアにいるらしい。パーティー用の衣装を着て、『似合ってるかな?』と、軽音楽部のグループに。
しおが早速、『いいじゃん』と返信する。こいつ、この時間に起きてんのか、と、みき、一瞬思ったが、時計をみたら八時半である。まあ、さすがに起きてるか。
みきも、
『似合ってるよ』と返す。
『そうかな? ありがとう』
グループ通話が急にきた。発信は、これまたゆかである。
「ねぇねぇ、みき、しお、聞いてよ~」
「はいはい。どした?」
「なんかね、なんかね、このあいだのお茶会で、二十歳くらいのおにいさんに『きれいですね』っていわれちゃって~」
「そのひと、かっこいいの?」
「ぜんぜん」
「あ、そう」
「なんつーか」と、しお。「そのおにいさんがかわいそうになってきた」
「なんでぇ?」
「いや、べつに」
正直わかる、とか思う、みき。
まあ、ゆかの好みじゃなかった、という可能性もあるけど、どうだろう。そういえば、どんなやつがタイプとか、あるんだろうか。そもそも、そういう感情、あるんだろうか。いや、さすがにそれは、あるか。
「いまからパーティーなの?」
「うん。たまにお酒すすめられちゃう」
「間違えてのむなよ」
「むかしはあったけど、いまはだいじょうぶだよ~」
「……そっか。まあ、たのしんでね」
「うん~」
それから、しばらく、みんなだまる。
で、ふとしたときに、ゆか、
「いま、ひまなんだよねぇ」
「……だろうな」
もうちょっと、付き合ってやることにした。
【夏井みき ボーカル・ギター担当】
毒舌な女子高校生。
四月から二年生になる。
四月からの抱負は『文武両道』で、ついでに、しおやゆかにも、それを徹底させようと思っているらしい。




