23 ハイルーフ②
「ほんと、どーするよ」
「ん?」
「バンド名」
しおにいわれて、はっとする。うめと校門の前でわかれて、修了式のかえりだった。さすがに、あとまわしにしすぎだ。
「……決めるか、さすがに」
みき、歩きながらかんがえる。なんか、へたにかっこつけるのもどうかと思うし、かといって、へんにかわいくするのもらしくない気がする。
前、しおが「ほどよくダサいのがいい」といっていたけれど、たしかに、そのくらいがちょうどいいのかもしれない。
でも、そこらの塩梅をかんがえると、どうにも思いうかばなくなる。
交差点、信号待ち、しお、すこし首をかしげて、いう。
「漆黒ノ翼」
「却下」
「でも、かっこいいねぇ」
「まじかよ……」
「熾天使――」
「却下だ、却下」
「ざんねん」
しお、ケラケラわらう。で、ゆかはといえば、たいしてなにも案がないようで、
「そういえば、熾天使ってなぁに?」と訊いた。
「え? なんだろーな……なんか燃えてんじゃね」
「てきとうな」
「ファイヤーなんだねぇ」
「あ、ファイヤーエンジェルってのは」
「どうしてそうも厨二によるんだ」
「やっぱだめかー」
どこか残念そうである。
が、そんな名前にされると、ちょっと、新歓のときとか文化祭のときとか、堂々とでていけない。
「みきはなんかないのー?」
「え、あ、わたし?」しばし考える。「……シトロンとか?」
「あっこのカフェじゃん」
「ばれたか」
「そんなかんじのでもいいの~?」
「うん? うんうん、いいよ」
「みき、おまえ……」
「……なんだよ」
「じゃあさ~」
ゆか、ふたりより前に出た。それで、にっこりわらう。
夕焼けどき、赤色のままの信号機、立ち止まったまんまのひとびと。街路樹。もっと奥、ビルが立ち並ぶなかのそのひとつ、立体駐車場をゆびさして、
「ハイルーフ」といった。「ね、どうかな」
立体駐車場のかべに、おおきく、『ハイルーフ』と書いてあった。さっき、それを見つけたんだろう、と、思う。
「どうかなぁ、みき」
「ハイルーフなぁ……車のことなんだけど」
「そうなのぉ?」
「しおはどう?」
「いーんじゃない」と、しお、うなずく。「あたしはいーと思う」
「そっか。ハイルーフ……ハイルーフなぁ」
信号が青になった。さんにんとも、歩きだす。夕焼けが、やけにきれいだ。どうなんだろう、ハイルーフって。似合ってんのか、どうなのか。ちょっとダサいんじゃねーの、とか、思わないでもない。
でも、
「ふたりとも、それがいいの?」
「みきがうなずいてくれるんなら」
「どう、いや?」
「ううん。それにしよう」
ゆか、決まりだねぇ、と笑顔になる。
ふたりがいいなら、それがいい。わたしにとっても、それがいちばん。みき、なんとなくそう思っていたし、そう思わせてくれるふたりが、ほんとうにすきだ。
口には、ださないけど。
「ねぇねぇ、みき」
「なに?」
「ありがとうね」
「え?」
ふいにいわれて、あしを止めた。さきを歩いていたゆか、ふり返る。長い黒髪が夕焼けに映えて、あざやかに舞った。それがきれいで、まばたきも忘れた。
「なんとなく。わたしもね、いいたくなったの」
「……うん」
ゆからしい、へんてこな理由だった。どういたしまして、とちいさくつぶやいて、みき、歩きはじめた。しおが横目でみきを見る。なんだよ、といってみる。ううん、なんでも。わらわれる。
あー、もう。
「……ゆか」
「うん?」
「その……こちらこそ、っていうか、なんていうか」
「うんうん」
「……ありがとうな」
「どぉいたしまして」
ゆか、きらきらした笑顔でみきを見る。みきは、しおを見て、
「しおも。ありがと」
「なんだよー。ふたりとも、これからだと思うよ」
「そりゃそーだよ」
「でも、一旦ね~」
「ま、感謝されるのも、わるかないね」
「なにさまだよ」
「すみません」
こらえきれずに、みき、吹き出してしまう。なんだよ、それ。なんか、敬っちゃった。へんなの。
しお、肩をすくめる。ゆか、ふたりに近づく。みき、どうしてかツボに入って、お腹をかかえて笑い出す。ポニーテールが、夕映えに揺れて、わらいすぎだと思う、なみだが出て、それを右手でぬぐった。
もうすぐで、六時だった。六時の時報が聞こえる前に、道をいそいだ。
【High Roof】
みき、しお、ゆか、三人のバンド名。発案者はゆか。
ゆかは車のことだとはまるで知らなかった。




