22 ハイルーフ①
六限目がおわって、うめ、
「修了式だね」とみきにいう。「なんか、あっというま」
「うん。あっというま」
教室から、ぞろぞろと生徒たちがでていく。みきのところに、ゆか、しおも来た。
「ねむい」と、しお。
「あ、わかるよ」
「あとちょっとだよ、しお」
「……そだねー」
ほんとう、ねむそうだ。みき、苦笑いして、しおの背中をかるくたたく。
「ねじ巻いて」
「どこにあんの?」
「ん? 腰あたりにない? バカには見えないかんじの」
「こいつ、置いていくか」
「やめてよ」
出遅れないように、よにん、教室をでていく。階段は生徒でつまっていて、ろくに進まない。間に合うかなぁ、と、うめ、腕時計を見やる。
「間に合わなかったらそのときでしょ」
「能天気な。まあそうだけどさ」
「ねぇねぇ、修了式って、なにするの?」
「なにもしないと思うよ。校歌くらいはうたうかも」
「寝てていーんじゃね」
「よかねーよ」
「そういえば、さんにん、春休みはなにするの?」
「うん? 部活とか……つっても、四回くらいか、軽音楽部」
「合わせはねー」
「ゆかって、海外いくんだよね」
「うん。フランスでしょ、イタリアでしょ、イギリスでしょ……」
「ヨーロッパのほう?」
「アジアもいくよ」
「すくないほうだよな、ことし」
「そうだねぇ」
「それですくねーの?」
「あ、えっと、旅行?」
「ううん。観光もちょっとはするかもだけど、だいたいはお父さんのよこでにこにこするだけ~」
「うーん? なんか、すごいね」
「そうかなぁ」
ゆか、たいして興味なさそうなくちぶり。小さいころからそうなんだろうし、ゆかにとっては、それがふつうなのかもしれない。
ちょっと、みきにとっては、現実離れしているけれど。
「……じゃあ、あんまり、あそべない?」
「どうだろうねぇ……。うめちゃんも、部活あるでしょ?」
「あるけど、土日はおやすみ」
「なら……日曜日が一日だけ空いてるかも」
「じゃ、わたしもそこは空けとくか」
「あたしはカレンダーまっさらだから、いつでもいいよー」
「ほんとう? やった」
うめ、ずいぶんうれしそうにわらう。
で、その日の予定ができて、ゆか、思いついたように、
「そのときにおごってもらおうかなぁ」といった。
「なにを?」
「ケーキ。みきに」
「あ……」
忘れていた。そういえば、そんな約束、ついこのまえにしたような気がする。
たしかに、おいしいケーキをおごるみたいな話をしたし、財布のなかみも確認した。割とだいじょうぶそうではあったけれど、かといって、べつに、余裕があるわけでもなかった。
「ま、おごってやるよ。しかたねー」
「やったぁ!」
「あたしらのぶんも……」
「それはどうだろうな」
「ちぇ」
「おい」
みき、しおの頭にチョップ。オーバーにリアクションするしお、知らない生徒にぶつかってしまって、一転して、平身低頭、あやまりだす。
なにやってんだか。みき、呆れて、苦笑い。ゆかはといえば、しおのこと、まったく気に留めずに、階段のしたを覗きこんでいる。
そんなさんにんを見て、うめ、くすりと笑った。みき、それを見て、
「どしたの?」とこころもち穏やかに訊く。
「ううん。なんか、さんにんとおんなじクラスで、よかったなって」
そう? と、みき。
そうだよ、と、うめ。
「四月からも、おんなじクラスだったらな」
いうなり、ゆかが振りむいた。
「なんの話?」
「聞いてなかったのかよ」
「んとね、なんていうか……」
しおも、あやまるのをやめて、戻ってきた。うめ、ちょっとはずかしそうにしながら、頬を掻いて、
「みんな、ありがとうね」といった。
きょとん、とするゆか。でも、すぐににっこりして、
「どぉいたしまして」と、うめにいう。
「なんか、卒業するみたいだなー」
「あ、そうかも」
「したらやだよ~」
「しないから。しお以外は」
「え~」
「純粋なゆかは信じちゃうだろ」
「ごめんごめん」
クスクスわらう、みき。うめも似たかんじのわらい方をして、しおも、自然とわらってしまう。ゆか、ひとりだけ、よくわからないふうに、きょとんとしていたけど、やがてわらいがうつる。
おんなじクラスなら、ほんとう、楽しいんだろうな。みきも、うめみたいにそう思った。
三月の風が、いつもより暖かかった。
【笹田うめ 卓球部部員】
みきたちのクラスメート。
人見知りが激しく臆病なおとなしい女の子。
ジェットコースターとかの『絶叫系』が実は得意で、遊園地に行くとよく乗るのだが、たいてい意外だといわれるらしい。




