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朝を歩け。  作者: 維酉
Debut Single【朝を歩け】
27/176

22 ハイルーフ①

 六限目がおわって、うめ、


「修了式だね」とみきにいう。「なんか、あっというま」

「うん。あっというま」


 教室から、ぞろぞろと生徒たちがでていく。みきのところに、ゆか、しおも来た。


「ねむい」と、しお。

「あ、わかるよ」

「あとちょっとだよ、しお」

「……そだねー」


 ほんとう、ねむそうだ。みき、苦笑いして、しおの背中をかるくたたく。


「ねじ巻いて」

「どこにあんの?」

「ん? 腰あたりにない? バカには見えないかんじの」

「こいつ、置いていくか」

「やめてよ」


 出遅れないように、よにん、教室をでていく。階段は生徒でつまっていて、ろくに進まない。間に合うかなぁ、と、うめ、腕時計を見やる。


「間に合わなかったらそのときでしょ」

「能天気な。まあそうだけどさ」

「ねぇねぇ、修了式って、なにするの?」

「なにもしないと思うよ。校歌くらいはうたうかも」

「寝てていーんじゃね」

「よかねーよ」

「そういえば、さんにん、春休みはなにするの?」

「うん? 部活とか……つっても、四回くらいか、軽音楽部」

「合わせはねー」

「ゆかって、海外いくんだよね」

「うん。フランスでしょ、イタリアでしょ、イギリスでしょ……」

「ヨーロッパのほう?」

「アジアもいくよ」

「すくないほうだよな、ことし」

「そうだねぇ」

「それですくねーの?」

「あ、えっと、旅行?」

「ううん。観光もちょっとはするかもだけど、だいたいはお父さんのよこでにこにこするだけ~」

「うーん? なんか、すごいね」

「そうかなぁ」


 ゆか、たいして興味なさそうなくちぶり。小さいころからそうなんだろうし、ゆかにとっては、それがふつうなのかもしれない。

 ちょっと、みきにとっては、現実離れしているけれど。


「……じゃあ、あんまり、あそべない?」

「どうだろうねぇ……。うめちゃんも、部活あるでしょ?」

「あるけど、土日はおやすみ」

「なら……日曜日が一日だけ空いてるかも」

「じゃ、わたしもそこは空けとくか」

「あたしはカレンダーまっさらだから、いつでもいいよー」

「ほんとう? やった」


 うめ、ずいぶんうれしそうにわらう。

 で、その日の予定ができて、ゆか、思いついたように、


「そのときにおごってもらおうかなぁ」といった。

「なにを?」

「ケーキ。みきに」

「あ……」


 忘れていた。そういえば、そんな約束、ついこのまえにしたような気がする。


 たしかに、おいしいケーキをおごるみたいな話をしたし、財布のなかみも確認した。割とだいじょうぶそうではあったけれど、かといって、べつに、余裕があるわけでもなかった。


「ま、おごってやるよ。しかたねー」

「やったぁ!」

「あたしらのぶんも……」

「それはどうだろうな」

「ちぇ」

「おい」


 みき、しおの頭にチョップ。オーバーにリアクションするしお、知らない生徒にぶつかってしまって、一転して、平身低頭、あやまりだす。


 なにやってんだか。みき、呆れて、苦笑い。ゆかはといえば、しおのこと、まったく気に留めずに、階段のしたを覗きこんでいる。


 そんなさんにんを見て、うめ、くすりと笑った。みき、それを見て、


「どしたの?」とこころもち穏やかに訊く。

「ううん。なんか、さんにんとおんなじクラスで、よかったなって」


 そう? と、みき。

 そうだよ、と、うめ。


「四月からも、おんなじクラスだったらな」


 いうなり、ゆかが振りむいた。


「なんの話?」

「聞いてなかったのかよ」

「んとね、なんていうか……」


 しおも、あやまるのをやめて、戻ってきた。うめ、ちょっとはずかしそうにしながら、頬を掻いて、


「みんな、ありがとうね」といった。


 きょとん、とするゆか。でも、すぐににっこりして、


「どぉいたしまして」と、うめにいう。

「なんか、卒業するみたいだなー」

「あ、そうかも」

「したらやだよ~」

「しないから。しお以外は」

「え~」

「純粋なゆかは信じちゃうだろ」

「ごめんごめん」


 クスクスわらう、みき。うめも似たかんじのわらい方をして、しおも、自然とわらってしまう。ゆか、ひとりだけ、よくわからないふうに、きょとんとしていたけど、やがてわらいがうつる。


 おんなじクラスなら、ほんとう、楽しいんだろうな。みきも、うめみたいにそう思った。


 三月の風が、いつもより暖かかった。



【笹田うめ 卓球部部員】


 みきたちのクラスメート。

 人見知りが激しく臆病なおとなしい女の子。


 ジェットコースターとかの『絶叫系』が実は得意で、遊園地に行くとよく乗るのだが、たいてい意外だといわれるらしい。

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