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朝を歩け。  作者: 維酉
Debut Single【朝を歩け】
25/176

20 三連勝

「もし海外行くならさ、どこ行きたい?」


 お昼どきに、しおがいった。


「海外行くなら、フランスかなぁ」と、うめ。「きれいそう」

「やっぱヨーロッパかー」

「うん。アメリカとかもいいけど……ニューヨークとか。しおちゃんは?」

「あたしはタイ」

「どうして?」

「地質調査」

「ふぅん……?」


 うめには、よくわからない。ジョークなのはわかる。


「真に受けなくていいぞ」と、みき。「鯛はタイの赤土が千切れた魚だとかいう謎のギャグの延長だから」

「あ、そういう……。なんていうか、粋だね」

「面白くないなら面白くないといってくれ」

「面白くねー」

「あたしもそう思ってた」

「わたしはしおのそういうとこ、好きだよ~」

「それ、フォローになってるのかな……」


 うめ、苦笑い。


「わたしね~、ロシア行きたい」

「寒いぞ」

「寒いけど~、暑いよりはいいかなって~」

「ロシアといえば……あ、思い出してしまったぁ……」

「なにをー?」

「トラウマ……」うめ、げんなりする。「ロシア、カエルで検索かけたわたしが馬鹿だったんだよ、笑って……」

「うーん」想像のついてない、しお。「まあ、ドンマイ」


 ロシアといえば、ボルシチだよ、とゆか。食のことしか頭にないのか、どうなのか。でも、食べたことないんだけどねぇ。なんだそれ。


「みきちゃんは?」

「わたし? ……インドかな」

「どしてー?」

「カレーでしょ~」

「いや、なんとなく」


 実際、たいした理由もなかった。ぱっと思いうかんだ国のなまえをいったら、ぐうぜん、インドだっただけである。


 けれど、ゆか、インドをどうしてか気に入ったようで、「インドかぁ」としきりにうなずく。

 で、しおの二の腕をつついて、


「本場のカレーって、どんな味するんだろうね?」

「ん? めっちゃからいんじゃない?」

「スパイシーなのかぁ」

「日本のやつとはぜんぜん違うって、きいたこと、あるよ」とうめ。

「あぁ、そうらしいね」こんどはみき。「ゆか、からいの得意だっけ?」

「うーん、あんまりかなぁ」

「甘口カレーとか、むこうにあんのかなー」

「あまくちって、いい文化だよねぇ」

「ゆかちゃん、甘党?」

「そうでもないよ?」

「好きっちゃ好きなんだっけ」

「好きだけど、好きじゃないんだよ」

「んー……?」


 うめ、よくわからないといったふうに、首をかしげる。それを見たみき、苦笑い。


「そうなるよね、やっぱり」

「どういうことなの?」

「さあ。しおならわかるんじゃね」

「わかるよーな」

「わからないような~」


 ゆかがそれをいうのか、みき、思ったがつっこまず。なんか、つっこんだら負けのような気がして、おしとどめてしまった。


「う~ん、ケーキが食べたいね?」

「いや、食べたいねっていわれてもよ」

「こんどいくかー?」

「いいねぇ」

「あ、おいしいとこ、知ってるよ」

「ほんと~?」

「みきのおごりかー」

「ありえねぇよ」

「あ、そんなに高くないから……」

「おごれってか」

「じゃんけんで勝ったらおごってくれる~?」

「三連勝したら考えてやる」

「よぉし」


 じゃんけん、一戦目、みきがグーを出す。ゆか、パー。一勝目である。

 で、第二戦。こちらはみき、パーを出した。すると、ゆか、チョキを出している。まさかの二連勝である。


 これはまずい、とは思いつつも、ゆか、とてもやる気で、場ももりあがってきた。退くに退けない。しかたない、勝てばいいのだ。じゃんけん、ぽん。


 みき、チョキで。

 ゆか、グーだった。


「やりぃ~!」

「……マジかぁ」


 ほんとうに三連勝されるとは。なにが起こるか、わかったもんじゃない。みき、かるく頭痛がしたが、腹をくくった。財布がちょっと、心配だった。



【玉原しお 軽音楽部部員】


 面倒くさがり屋のボケ&ツッコミ担当。

 わりとやきもち焼き。


 食べ物の好き嫌いはあまりないが、唯一、いちじくが苦手。いちじくを文字通り「煮ても焼いても喰えないやつ」といったところ、ゆかに「ジャムはおいしいよ~」といわれ、食べてみたところ、ふつうにおいしかったらしい。

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