18 嫉妬
「そういえば、さんにんって、バンド名とかあるの?」
昼食のとき、ふと、うめに訊かれた。あ、とみきが声を出す。
「ない」
しおが答える。
「ないね~」
ゆか、のんびりした口調でそういって、「まずいね~」と付け足した。
みき、訊かれて額に手をやる。いつかは決めなきゃ、決めなきゃと思っていたのだが、先延ばしにしていた。
「いや、まあ……平川高校軽音楽部、でも多少はいけると思うんだけど」
「ダサい」
「ダサいね~」
「ダサいよなぁ……」
「えっと、新歓で演奏するんだったよね?」
「そう」
「じゃ、四月までに決めるんだ?」
「そうそう」
とはいえ、案すらまともに出していない。そもそも、バンド名についてしっかり話したことなんて、一度もなかった。
ここのところ練習に熱をいれるばかりで、そういうことなんて、なかなか思いつきもしなかったのである。でも、二月も中旬に入り、新入生歓迎会での発表も、まだ時間はあるにしろ、それなりに近づいてきた。
そろそろ決めておいても、いいかもしれない。
「つっても、なにも思いつかないけどねー」
しおがケラケラ笑いながらいった。だよなー、とみき。
「難しいよな。なんかこう……カッコつけすぎてもらしくねーし」
「ほどよくダサいのがいい」
「なるほど……?」
うめ、あいまいな相槌。
「まあ、そういうのって、さんにんの好みだよね」
けっきょく無難なところに話を着地させた。でも、実際、そうだ。みき、早々に弁当を片付けながら、しばし思案する。
バンド名……バンド名、ねぇ。
うまい具合に、降ってきたらいいけど。
「そぉいえば、うめちゃんって何部なの?」
「へ? あ、わたし?」
ゆか、急に気になったようで、質問をぶつける。弁当のすみっこのたまごやきを箸でつかみながら、答えるに、
「わたしは卓球部だよ」と、うめ。
「そうなの? 運動部だったんだぁ……」
「あれ、なんで残念そうなの?」
「卓球ってことは、反復横跳びかー」
「あ、うん? まあ、たしかにそれもあるけど……」
「卓球少女だったんだぁ……」
「なんで残念そうにいうの?」
「みきは知ってたー?」
「え、なに?」
いきなり話が回ってきた。実のところ、さっきからバンド名のことを考えていて、若干うわのそらだった。
「うめ、卓球部なんだと」
「え? うん、知ってたけど」
「マジかよ」
「人脈ひろいもんね~」
「そう、それ。わたし、クラスちがいの部活の子にみきちゃんの話したら、『夏井さん、知ってるよ』っていわれた」
「ひょわ~」
「え、なに。逆にお前ら知らなかったの?」
「うめが卓球部とか初耳だよ」
「情報網がないからさ~」
その言葉に、しおとうめが頷く。それはどうなんだろうと思いつつも、しおとゆかは、みきが加わるまでそれなりに閉鎖的なコミュニティにいたから、仕方ないのかもしれない。ふたりで完結していたというか、なんというか。
うめは初めて話したときから人見知りだとわかったので、それもそれで、仕方ない。
「まあ、でも……知り合いは多いに越したことはないと思うぞ」
「ふやせるものならふやしたいよ~」
「あたしはめんどいからヤだ」
「そう? けっこううらやましいけどなぁ」
「うんうん~」
「あたしにほかの友達できたら、みきが嫉妬するじゃん」
「しねーよ」
「しねーの!?」
「してよぉ!」
「みきちゃーん!」
「なんでお前らしてほしいんだよ」
みき、思わず苦笑い。
このさんにん、本当に友達ができたらいいのに。面白いやつらなんだから。
【笹田うめ 野球派】
人見知りの強い女の子。
みきたちとは仲良くなった。
運動神経は意外といいほう。野球かサッカーなら野球だが、球技なら卓球が群を抜いて好きらしい。




