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朝を歩け。  作者: 維酉
Debut Single【朝を歩け】
23/176

18 嫉妬

「そういえば、さんにんって、バンド名とかあるの?」


 昼食のとき、ふと、うめに訊かれた。あ、とみきが声を出す。


「ない」


 しおが答える。


「ないね~」


 ゆか、のんびりした口調でそういって、「まずいね~」と付け足した。


 みき、訊かれて額に手をやる。いつかは決めなきゃ、決めなきゃと思っていたのだが、先延ばしにしていた。


「いや、まあ……平川高校軽音楽部、でも多少はいけると思うんだけど」

「ダサい」

「ダサいね~」

「ダサいよなぁ……」

「えっと、新歓で演奏するんだったよね?」

「そう」

「じゃ、四月までに決めるんだ?」

「そうそう」


 とはいえ、案すらまともに出していない。そもそも、バンド名についてしっかり話したことなんて、一度もなかった。


 ここのところ練習に熱をいれるばかりで、そういうことなんて、なかなか思いつきもしなかったのである。でも、二月も中旬に入り、新入生歓迎会での発表も、まだ時間はあるにしろ、それなりに近づいてきた。


 そろそろ決めておいても、いいかもしれない。


「つっても、なにも思いつかないけどねー」


 しおがケラケラ笑いながらいった。だよなー、とみき。


「難しいよな。なんかこう……カッコつけすぎてもらしくねーし」

「ほどよくダサいのがいい」

「なるほど……?」


 うめ、あいまいな相槌。


「まあ、そういうのって、さんにんの好みだよね」


 けっきょく無難なところに話を着地させた。でも、実際、そうだ。みき、早々に弁当を片付けながら、しばし思案する。


 バンド名……バンド名、ねぇ。

 うまい具合に、降ってきたらいいけど。


「そぉいえば、うめちゃんって何部なの?」

「へ? あ、わたし?」


 ゆか、急に気になったようで、質問をぶつける。弁当のすみっこのたまごやきを箸でつかみながら、答えるに、


「わたしは卓球部だよ」と、うめ。

「そうなの? 運動部だったんだぁ……」

「あれ、なんで残念そうなの?」

「卓球ってことは、反復横跳びかー」

「あ、うん? まあ、たしかにそれもあるけど……」

「卓球少女だったんだぁ……」

「なんで残念そうにいうの?」

「みきは知ってたー?」

「え、なに?」


 いきなり話が回ってきた。実のところ、さっきからバンド名のことを考えていて、若干うわのそらだった。


「うめ、卓球部なんだと」

「え? うん、知ってたけど」

「マジかよ」

「人脈ひろいもんね~」

「そう、それ。わたし、クラスちがいの部活の子にみきちゃんの話したら、『夏井さん、知ってるよ』っていわれた」

「ひょわ~」

「え、なに。逆にお前ら知らなかったの?」

「うめが卓球部とか初耳だよ」

「情報網がないからさ~」


 その言葉に、しおとうめが頷く。それはどうなんだろうと思いつつも、しおとゆかは、みきが加わるまでそれなりに閉鎖的なコミュニティにいたから、仕方ないのかもしれない。ふたりで完結していたというか、なんというか。


 うめは初めて話したときから人見知りだとわかったので、それもそれで、仕方ない。


「まあ、でも……知り合いは多いに越したことはないと思うぞ」

「ふやせるものならふやしたいよ~」

「あたしはめんどいからヤだ」

「そう? けっこううらやましいけどなぁ」

「うんうん~」

「あたしにほかの友達できたら、みきが嫉妬するじゃん」

「しねーよ」

「しねーの!?」

「してよぉ!」

「みきちゃーん!」

「なんでお前らしてほしいんだよ」


 みき、思わず苦笑い。

 このさんにん、本当に友達ができたらいいのに。面白いやつらなんだから。



【笹田うめ 野球派】


 人見知りの強い女の子。

 みきたちとは仲良くなった。


 運動神経は意外といいほう。野球かサッカーなら野球だが、球技なら卓球が群を抜いて好きらしい。

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