17 お尋ね者
二月の空はからりと乾いている。休日、みき、ちょっとした友達との用事を済ませて帰路に就く。時刻、だいたい午後二時あたり。そしたら、
「あ、ゆか」
「お? お~、みき」
住宅街で、ゆかを見つけた。
コート姿で、マフラー巻いたゆか、気付くなりみきに駆け寄ってくる。近くにきた彼女、よく見ると、額に汗が薄っすら浮いている。
「熱?」
「ちがうよ~。ちょっと走ってたから」
「なんで?」
「かわいいねこちゃんが~」
と、ゆか、細い路地を指さした。ああ、なるほど。合点がいった。どうやら、ねこを見かけていまさっきまで追いかけていたらしい。
たまに、休みの日にのらねこと追いかけっこした話なんかを、ゆかから聞いたりもするが、実際にそれを目撃するのははじめてだった。
ちょっと、レアかも。みき、こころのなかでこっそり笑う。
「どんなねこだったの?」
「えっとねぇ、茶色かったよ。毛もふわっとしててねぇ」
「へぇ、そんなのいるんだ」
「たぶん、飼いねこだと思うよ。首輪してたから~」
「なるほどね」
「みきこそ、どうしてここに?」
「ああ、ちょっと友達に会ってて」
「それってしお? うめちゃん?」
「どっちでもないけど」
「ふ~ん」
どっちでもないとわかると、まるで興味なさげだった。そういえば、みき、ゆかが自分自身やしおたち以外とはあまり話すところを見たことがない気がする。どうしてだろう、ちょっと思う。
マイペースだからだろうか。たぶんそうだ。
「じゃあ、いま、帰り~?」
「うん。そうだけど」
「なら、ついてきて~」
「うん?」
小走りをはじめる、ゆか。どうしたものかな。みき、肩をすくめて、それからすぐついていく。
どこに向かっているのだろう。ゆか、小路にはいって、行き先はどうともつかない。こうなるなら、ちょっとは動きやすい服にしとくべきだったかな。みき、そう思って、くすりと笑う。
「あ、見つけた~!」
と、ゆかがいきなり立ち止まる。
そして、なにかを抱え上げるような動作をした。ゆかの腕の中、みきは覗き込む。茶色いねこがいた。首輪をしていて、毛がふわふわで……さっきゆかが話していたねこかな、と見当をつける。
「かわいいね」
「でしょ~。クラムちゃんっていうんだって~」
首輪の名前を見ながら、ゆかがいう。クラムはすこし土で薄汚れていても、毛並みはすっかりととのっている。けっこうな家の飼いねこに見えなくもない。
みき、ちょっと不思議に思うのは、この子、ほんとうに放し飼いなのかな、と。見た感じ成猫で、もし放し飼いなら傷のひとつやふたつ、ありそうなものである。でも、それがない。それに、毛もきれいすぎる。
そう考えながら、ふとちかくの電信柱を見ると、みき、「あ」と声を出す。
「ゆか、そのねこ、逃がさないでね」
「ん? うん~」
◇
「そっか~。クラム、お尋ね者だったんだね~」
クラム、実は迷いねこで、飼い主が『捜索中』のポスターを貼っていた。そこに書いてあった住所にクラムを連れていって、お礼をいわれて、それからの帰り。
ゆかの感覚だと、クラムはお尋ね者になるらしかった。それだと、悪事をはたらいたみたいで、ちょっとした風評被害である。
「そういういい方も、できるけど」と、みきは苦笑い。
「う~ん、でも、どうしようね? このお金……」
「あー……けっきょく受け取っちゃったな」
「しおとうめちゃん呼んで、なにか食べる?」
「いまから? うめちゃん来れるかな……」
「しおは飛んできそう」
「タダメシだもんな」
ふたり、声を合わせて笑う。
けっきょく、お礼のお金は通り過ぎたたい焼き屋にわたり、たい焼きはふたりの胃袋に収まった。ゆかは二尾たべた。ま、今日はお手柄だったからね。みき、おいしそうに頬張るゆかに、そういった。
【戸殿ゆか サッカー派】
マイペースな女子高生。
運動神経は最悪。
スポーツは嫌いではなく、むしろ好き。ただしうまくできるかどうかは問題としていなかったりする。




