13 あこがれ
「あー、さむい」
陽はすでに落ち、いまは夜の際。みき、街をいく前田先生のうしろについて、歩いていく。
「寒いですよね、やっぱり」
「うん、寒い。ふゆだもん」
前田先生、ふりかえって、みきの顔を見る。
「マフラー」
「はい」
「巻き方、へんになってる」
いわれて、なおそうとする。へんっていったい、どんなふうに。よくわからなかったので、一旦、巻いていたものぜんぶ外す。それから、巻きなおした。
さて、どこいこうかな。
いって、前田先生、ふらりと路地に吸い込まれる。みき、それに付いていく。よくわからない道、慣れたように、先生、ひょうひょうと進んでいく。
通りから、路地を抜けて、また別の通りへ。
一月の、つめたい夜の風が、ふたりを抜き去っていく。寒さは、山場をむかえようとしていた。来週の火曜日は、雪予報。けっこう、積もるらしい。ゆか、よろこびそうである。
街中、とある楽器店にたどり着いた。ひとつのビル、まるまるが、音楽であふれているばしょ。
エスカレーターに乗って、三階まで。すると、ギター、ずらりと並んだところに出る。
「エレキじゃなくて……あっこか」
先生、アコースティックギターの前に立ち、てきとうに一本、手に取る。
「予算は?」
「だいたい三万円……高くて四万円くらいで」
「そう。妥当だね」
店員さん、やってきた。先生、店員さんと話しながら、コード、いくつか弾いて、べつのに持ちかえる。それを何度か繰り返して、「あ、これいいかもよ」とみきに渡す。
先生のまねで、弾いてみる。いいかも、と思う。
「値段は……四万二千円」
「ほかのとこも見てみる?」
「あの……はい。時間、だいじょうぶだったら」
「わたしはいーんだよ。夏井さんは、まあ、八時までには家に帰すさ」
いや、よくはないんだけど。おもに仕事がら。
先生、そういったけれど、みき、聞こえないふり。きょうは甘えさせてもらうと、決めたのである。
外に出て、またべつの場所へ。歩いて、ほど近いところに、また楽器屋があった。
「そういえば」と先生。「お金、どうやって用意したの?」
「バイトです。十月まで、やってました。時間縫って」
「……器用だねぇ」
校則違反、注意すべきなのか、どうなのか。いまは働いてないみたいだし、うーん。
そんなつぶやきも、聞こえないふり。
「まあ、軽音楽部、十月までは週一だったもんね」注意、しないらしい。
「なんていうか……合わせることも、できなかったので」
「でも、なんか、意外。夏井さんって、校則違反とか、しないと思ってた。携帯とかもってきてたりする?」やっぱり、校則関係、気にはなるらしい。
「それ、いま申告したら、現行犯でダウトされません?」
「まあ、うん」
「持ってないです。これ、本当です」
実のところ、あんまり携帯、持ち歩かない。
ギターを、見て回る。
二軒目を見たあと、三軒目とつづく。きょうのところはそれで終わって、だいたい、二本のギターに絞れた。あとは、みき、悩んで決める。
「ね、夏井さん。どしてエレキギターじゃなくてアコギなの?」
とちゅう、そう訊かれる。みき、あまり悩まずに、
「あこがれなんです」といった。
「ふうん」よくわかっていなさそうだった。
「それに、エレキギターは学校でずっと弾いてますから」
「それはそうか。そういうものかな」
帰り道、路上で弾き語りをする若者がいた。ふと、先生、立ち止まって、なつかしむような目をする。その横顔がきれいで、わたしもあれが弾いてみたいと、みき、つよく思った。
一月の、夜だった。
【戸殿ゆか ねこ派】
マイペースなおっとり屋。
ねこには見境ない。
ぬめぬめした生き物が苦手で、カエルに関しては「写真で見るならカワイイ」らしい。




