170 お友達
「来月は修学旅行だね」と、のの、始業前に。
「あぁ、そっか。もうそんな時期か」
みき、あたまのなかのカレンダーを呼び起こす。来月、11月は、第一週に軽音楽部のステージがあって、第三週には修学旅行だ。
「どこいくんだっけ?」
「うそ! みきちゃん、それはさすがにだよ」
「冗談だって。京都だよね」
「よかったぁ、高校生の一大イベントだからね。ちゃんと覚えてないと」
教室、やや人数がふえてきて、そのなかにくづきもいる。のの、呼びかけると、
「くづきちゃん、修学旅行だよ!」
「来月ですよね」と、肯く。「どこいくんでしたっけ?」
「くづきちゃんまで……」
「わかんなくなるよね」
「はい、ふふ。京都ですよね」
「よかったぁ、高校生の一大イベントなんだからね」
「うんうん。最後のたのしみだよ」
「来年は受験ですからね」
「やなこというー!」
のの、みきの机にぐったり伸びて、
「やだよー、いまはみきちゃんとの京都デートしか考えたくない……」
「現実を見なよ」
「ふふ、ののさんは、やっぱりみきさんがお好きなんですね」
「おぉ……くづきちゃんにいわれると、なんかはずいな……」
「なんで?」
「冗談にならない気がする」
「えっ、冗談だったんですか?」
「ひどいよね」
「う、冗談じゃないんだけどぉ、なんていうかぁ……!」
くねくねして、困っている。みき、くづき、顔をみあわせて、笑って、
「みきさんは、もう志望校はきめましたか?」
「うーん、東京の大学受けようと思ってるんだけど……」
「へー、東京! いいねぇ、どこ住む?」
「いっしょに住まれるんですか?」
「そうらしいよ」
「うち、片道三時間くらいまでなら、ぜんぜんみきちゃんにあわせるから」
「いっしょの大学受けるんじゃなかったの?」
「万が一ということもあるでしょ」
「あんまり想像したくないですね……」
「縁起でもないこといわないでよ」
「京都で合格祈願、しましょう!」
「うんうん! 京都ってそういうスポットたくさんありそうだし」
「くづきちゃんは、京都、詳しい? 大阪から近いし」
「そうですね。なんどか行ったことはあります」
「じゃ、くづきちゃんがいたら、自由行動も完璧だね!」
「え、わたし、お邪魔していいんですか? おふたりのデートは……」
「ののちゃん……」
「じぶんでじぶんの首しめてるなぁ、うち」
とはいえ、じっさいにも班行動だろうし、このさんにんで動けたらたのしそうではある。
などと思っていたら、
「ずっと気になってたんですが」と、くづき。「みきさんのほうは、ののさんのことをどう思っているんですか?」
「えっ⁉」
「ちょ、くづきちゃん⁉」
「あ、あれ、わたし、まずいこといいましたかっ?」
「これが本物のピュアってやつか……」
「どうっていわれても、答えようがないからな……」
「そうだよ。表ではただの友達で通ってるんだから」
「裏では?」
「ただの友達だけど」
「うちとは遊びだったってこと⁉」
「ほら、こんな面倒くさいこというから、だめなんだよ、その話題は」
「な、なるほど……」
「でも、うちのこと、すきだよね?」
「すきだよ」
「お友達ですもんね」
「そうそう」
「あれ?」
のの、なにか微妙な表情。が、チャイムが鳴ったのでじぶんの席にもどっていった。
【大本みい子 シンガーソングライター】
O-Motという名義で歌手活動をしている。
前田あおばたちと学生時代にバンドを組んでいた。
よくもわるくも裏表のない性格で、みきに懐かれている。みい子自身もみきのことは気に入っており、なにかと相談に乗ることも多い。