11 戸殿さん
「みきちゃんって、軽音楽部なんだっけ」
と、うめ。校庭、サッカーボールをぽんと蹴って、みき、
「そう」と頷く。
「ギターとか、弾けるの?」
「ちょっとはね」
「すごいなぁ」
サッカーボール、返ってくる。足でトラップして、回転を落ち着かせる。それから蹴り返した。
ちょっと離れたところでは、ゆかとしおがパス練習をしていた。ゆかの蹴ったボール、明後日の方向にとんでいく。それを追いかけるしお。だいじょうぶかな、あれ。
「わたし、Fのコードで挫折しちゃった」
「むずかしいもんね。あれ、やったことあるの?」
「おとうさんがギター持ってて」
「そうなんだ」
「おとうさん、あんまりうまくないんだけどね……あ」
ゆかの蹴ったボールが、うめのほうに飛んできた。駆け寄ってくる、しおとゆか。
「ごめんね、笹田さん~」
「う、ううん、だいじょうぶ」
若干、挙動不審になった。人見知りモードに変わったみたいである。みきとは、ふつうに話せるようになったけれど、そういえば、ゆかやしおとはつながりがない。
「気を付けなよ、ゆかー」みき、呼びかけてみる。
「あ、みき~。がんばるねぇ」
手を振り返される。
と、そんなところで、先生の声。四人組になって、とりかごー。みき、うめ、しお、ゆか。ちょうど四人いた。これでやるか、と話が決まる。
はじめの鬼はしお。自分からとりかごのなかに入った。ボールはみきが持っている。念のため、
「ファウルプレーなしな」釘を刺す。
「サッカーはフィジカルだぜ」
「あってるけどまちがってる」うめがツッコむ。
「うめちゃん」
「あ、うん」うめにパス。
「うめちゃんかー」
「わたしもうめちゃんって呼ぶ~。うめちゃ~ん、ぱすみー」
「えっ、あ、うん」
「ゆかでいいのか……?」しお、鬼なのに不安げ。
「ダイレクトパスってどうするの~?」
「もう足で止めてんじゃん」とみき。
「うめちゃ~ん」
「かえってくるのっ?」いいつつ、受け取る。
「うめちゃーん」
「渡さないって」
「うめちゃ~ん」
「み、みきちゃん」
「おまえら、うめちゃん困らせんなよ……」
みきが取ろうとしたボール、しおが横からカット。あ、ごめんね、と聞こえる。ゆかはしおに拍手。
「わたしが鬼かぁ」うめが入る。
「うめちゃん、しお相手なら殴っても可」
「え」
「みきも困らせてんじゃん」
「あ、すまん」
「ううん、だいじょうぶ」
「ゆかー」しおのボールがゆかに。
「みき~」
「しお」とボールが渡っていく。
二巡目、ゆかにボールが渡った。みきにパスするつもりが、ボールに足がかすって、よわい軌道。うめ、それをのがさずパスカット。ゆか、うめに拍手して、「あ、自分がミスったんだ~」と歩き出す。
ゆか、まんなか。
これ、終わるかな。みき、思ったが、くちには出さない。しお、うめも、なにもいわない。
「これ、終わるかな~?」そしたら、ゆかがいった。
「がんばって、戸殿さん!」
「ゆかでいいよ~」
「……ゆかちゃん!」
「うん、がんばるねぇ」
「あ、あたしもしおでいいよー」
「しおちゃん」
「そーそー」
お、なんだかうまくやれそう。ほっと安心するみき。おやみたいな心持ちでうめのことを見ていたことに、ちょっと自分で笑いもする。
「どうしたの、みきちゃん?」
「ううん、なんでも」
「みき、パスー」
「おう」
とりかごの時間、終わるまで、結局ゆかはずっとまんなかだった。
【夏井みき いぬ派】
軽音楽部の部長で、ギターとボーカル担当。
うめと一番最初に仲良くなった。
しおやゆかと一緒にいることが多いが、実は友達が多い。二組の友だちによく古いバンドのCDを借りている。




