07 長話
冬休み。課題をすすめていたみき、ふと窓の外を見ると、雪が降っていた。どうりで、寒い。
たぶん、初雪だった。しんしん、しんしん、降っている。
ながめていたら、携帯に着信。見てみると、グループ通話。
「もしもし」
「みき~、雪だよ、雪」ゆかの声。
「そうだな」
「積もるかな~」
「どうだろうなあ」
それほどたくさん降っているわけでもない。あまり、積もらないかも。
「うーっす」しおも参加した。「どしたのみきー」
「はじめたのはわたしじゃねーよ」
「じゃ、ゆか?」
「ねぇねぇ、しお、雪が降ってるよ~」
「え、まじで?」
電話口の向こう、カーテンを開ける音が聞こえる。
「うお、ほんとだ。寒そう」
「すごく寒いよ~」
「外にいるの?」とみき。
「補充授業~」
「そっかあ……」
「授業終わったのかー?」
「終わったよ、今日で最後なの」
「おつかれー」
「おつかれ」
「ありがとお」
きのう、学校でね、クリスマスパーティーしたの。一日遅れの、ハッピークリスマス。ゆかがいった。担当の先生から、出席者、みんなおかしをもらったらしい。
「ふたりも来ればよかったのにい」
「行きたかねーよ」
「ギリギリで追試合格しちまったんだよなー」
「裏切り者~」
「非情なしお」
「みきはもっと非情だろー」
「ちょっと真面目なだけだよ」
「あ、焼き芋だ~」
「焼き芋?」
「ゆか、あたしのも買っといてくれ」
「わたしのも」
「しょうがないなぁ。みきの家に集合ね~」
「またかよ」
「一昨日行った」
「じゃあ、わたしの家? それともしおの家?」
「うちくんの?」
「わたしは構わねーけど」
「いいぜ。ふたりがそんなにあたしん家に来たいってんなら」
「しゃーねーなあ。行ってやるよ」
「焼き芋~、みっつ~」
「掃除すっかなあ」
「じゃあ切るぞー」
「それはダメだよ~」
「なんで」
「だって……みきの声、ずっと聞いてたいもん」
「おまえはわたしの彼氏かなにかか」
「みき依存症」
「まさにそれかも~」
「はた迷惑な病気だな」
いいつつ、勉強机のうえ、広げたテキストたちを片付ける。ゆかも、しおも、通話、やめる気がないらしい。
ずっとしゃべっている。なに着て出ようかなと、考えながら。
「彼氏かあ」
「どしたの、ゆか」
「みきの彼氏さん……」
「どーせイケメンだろ……」
「面食いじゃねーし。そもそもいねーし」
「みきみてーな完璧超人、嫁にこねーかなあ」
「夫の間違いだろ」
「みきと結婚したい~」
「うっせ」
「ツンデレでー」
「料理がおいしくて~」
「かわいくてー」
「ポニテが似合って~」
「……うちにこない?」
「いまから行くよ。友達としてな」
「友達から始めましょうっていう」
「あのパターンだねえ」
「ちげーって」
「この電話、いつまで続けよっかあ」
「ゆかの裁量」
「じゃ~、あと二分!」
「びみょい時間だなぁ」
二分なんて、あっという間。
ちょっと話したら、ゆか、「あ、もう二分」。
すぐ行くよ。みき、しおにそう告げてから、電話を切った。
準備を終えたら、玄関、開け放つ。寒風吹きすさぶ中、小さな雪の粉、マフラーに触れて消える。
一月が――年の瀬が、もうすぐそこにいた。
【戸殿ゆか Dr.】
軽音楽部、ドラムス担当。
成績は控えめ。
軽音楽部を再開させようといった張本人。幼少からピアノを習っており、腕はなかなかのもの。ドラムはなんとなく選んだ。




