114 さかな
「え、これ、釣れんのー?」
しお、まったくといっていいほど釣れない。かれこれ一時間である。
釣りにきていた一年生に合流し、しお、教えてもらったのだが、うまくいかない。
一方のみき、ゆか、どちらも一尾は釣っている。それで満足して、さきほど海辺の散歩にいった。
「あたしだけ、まったく釣れねーんだけど……」
「な、なんででしょうねっ……?」
いいつつ、かうな、ヒットする。きたきた! と、たのしげに。
「だいじょうぶです、ちゃんしお先輩」と、近くのシー。「わたしも朝からいますが、まったく釣れていません」
「なにもだいじょうぶじゃねー」
「ほ、ほんと、どうしてだろうね……?」
ねね、リールを巻くかうなを見守りつつ、首を傾げる。
ちなみに、午前中にいちばん釣果をあげたのは、ねねらしい。
「よっと!」
かうな、さっくり釣り上げる。きれいな色をしたアジだ。
「わたしのお昼ごはんは、ふたりに釣ってもらいました」
「あー……ま、気長に待とうぜ」
「はい」
とはいえ、釣れる気配はない。ボウズの予感がする。
「あ、みき先輩だ!」
かうなの視線のさきには、ゆかと堤防を歩く、みきの姿。充分歩いてきたのだろう、こちらにもどってこようとしている。
みき、帰ってくるなり、
「どうよ、しお」
「そろそろ飽きてきたなー……」
「わかります」シー、肯き、「でも、ここでやめると負けた気がして」
「そうなんだよなー」
「なにと戦ってるんだよ」
「あれ、ゆか先輩、なにか買ってきたんですかっ?」
見ると、ゆか、片手にビニル袋をひっさげている。にまりと口元をゆるめて、
「そこのお店で、アイス、買ってきちゃった。みんなのぶんもあるよぉ」
「おーっ!」
溶けてしまうまえに、カップアイスを開ける。島の牧場でとれた牛乳を、ふんだんに使ったものらしい。
ねね、
「これ、くるとき、気になってたんです……!」
「やっぱり~? わたしも、あとで買おうと思ってて~」
「なにも釣れてないけど、アイスはうめー」
「おいしいです。なにも釣れてませんが」
釣果ゼロのふたり、かなり悔しがっている。
それからも少々粘ったが、だめだった。ゆかのお父さんが迎えにきて、お開きになる。
で、道具をもってワゴンに乗りこむ。
「釣れねーの、けっこうクルなー……」
「……」シーも、かなり静かになってしまった。「しばらく引きずりそうです」
「まぁまぁ」みき、苦笑い。「元気だしてよ、ね?」
「そうだ! みき先輩も、おさかな捌けましたよねっ?」
かうな、落ち込むふたりと違って、疲れも見せずいきいきしている。
「捌けるといえば、捌けるよ」みき、首肯して、「まぁ、うまいわけではないけど」
「今日はおさかなパーティーだねぇ」
その日の晩は、新鮮な魚料理が食卓に並んだ。
【新藤くづき 高校二年生】
平川高校の二年生。
学業は飛びぬけて優秀だが、それ以外の能力が壊滅的。
夏休みの目標は「模試の判定をよくすること」。夏期講習に通いつつ、家でも受験生顔負けのスケジュールで勉強している。勉強がすきなので苦ではないらしい。




