112 怪談
「バーベキュー、おいしかったねぇ」
ゆか、表情筋をゆるませて、いう。あっというまに一日目がおわり、お風呂にもはいったし、あとは寝るだけだ。
とはいえ、かうなみたいに、まだまだ元気がありあまっている子もいる。時間も早いし、ほかの部員も丸テーブルを囲んで、まったり。
「みんなでおなじ部屋に泊まるのって、なんだか新鮮ですっ!」
「そうだなー」しお、首肯して、「こういうときにやることといえば……」
パッと照明が消える。ねね、ちいさく叫ぶ。
そして、暗闇に浮かびあがる、シーのかお。
「怪談ですね」と、懐中電灯を手に、「たくさん仕入れてきました」
「そう……」みき、苦笑して、「まぁ、ちょっとだけ手加減してね」
「では一席」
あれは、去年のことでした。わたしの友人、まぁ仮にAとしましょうか。その子がね、いうんですよ。「わたし、へんなの見ちゃったかも」、って……
へんなの? わたし、訊き返しました。ほら、わたし、そういう話は大好物なんで、そんなふうにいわれたら気になってしかたないんですよ。でも、いま思うと、それがよくなかったんですね……
Aちゃんはね、いいました。「都市伝説、あるでしょ。真夜中に、ひとりで出歩いてたら、黒い人影に声をかけられるってやつ……」
それは当時、地域で流行っていた都市伝説でした。なんでも、きゅうに黒い人影が現れて、がらがらした気味の悪い声で、道を尋ねてくるんだそうです。でも、尋ねてくるのはだれも知らない、地図にものってない道なんですって……
Aちゃん、その人影を見た、っていうんです。塾が長引いて、たまたま遅い時間に出歩いていたら、電柱の影からぬぅっと黒い人影が現れて、こっちに向かってきたんですって……
わっ! と叫んで、Aちゃん、おもわず逃げちゃったそうなんです。振りかえらず一心不乱に走って、もう心臓はばくばくいって、やっと家に着いたころにはもう汗だくでした。それで、転ぶようにお家にはいった。ご両親の顔を見て、そこではじめて、ほっと息をつけたんですって……
でも……この話、あんまり怖くないですよね。Aちゃんにはわるいですけど、わたし、拍子抜けしちゃって。だって、都市伝説では、不気味な声で道を尋ねられるんです。この都市伝説のキモって、そこじゃないですか。
だからわたし、それはお化けじゃなくて、人間だったんじゃない、っていいました。ま、そっちのほうが怖い、なんてこともありますけど、でもAちゃん、「へんなの」を見たともいえないでしょう? 声を聞いてないんですから。
きっとうわさの都市伝説じゃないよ。わたしがそういうと、Aちゃん、首をふるふる横に振りました。え、まさか、ってわたし、思いました。わるい予感はあたるもんですね、Aちゃん、かおをこわばらせて、いったんです。
走り際、声を聞いたって……気味のわるい声で、「お嬢さん、黄泉比良坂、どこですか」――って。
シー、語りおえて、ふっと表情をゆるめる。雰囲気のある語り口だった。
「以上が、わたしの怪談です」
「こ、こわかった……」
まっ暗闇のなか、ねね、近くにいたみきにしがみついて、ずっと震えている。こわがりらしい。
「実話~?」と、ゆか、身もふたもないことを訊く。
「そうです。脚色はしてますが」シー、肯いて、「でも、大部分は実話ですよ。脚色は一か所だけです」
「一か所?」
みき、訊き返す。シー、すこし悩んで、
「じつをいうと、わたし……Aちゃんに話を聞いたあと、実際にその場所までいってみたんです」
「おー、すごい。出たー?」
「いえ……黒い人影は見なかったんです。ただ……」
「ただ~……?」
ふいに懐中電灯の灯りが消えた。そして、ねねとみきのとなり、かうなが座っていた位置から、
「こんなかおの人間が――っ!」
「きゃー!」
「ねねちゃん、痛い、痛い」
ばっと浮かび上がる般若の面に、絶叫。で、みき、ねねに腕をちからいっぱい掴まれる。なんだか、文化祭のお化け屋敷でも、似たようなことがあった気がする。
「いやぁ、ごめんごめん」かうな、お面をとって、「さっきリビングでいいもの見つけちゃって、つい」
「し、死んじゃうかと思った……!」
「わたしも……」
みき、耳鳴りと腕の痛みを思いつつ、こわがるねねをなだめた。
【握津ねね 高校一年生】
平川高校の一年生。
極度の人見知りだが、軽音楽部では打ち解けてきた。
夏休みの目標は「新しいことに挑戦すること」……なのだが、姉・ののに話すとバンジージャンプに連れていかれそうになったので、真剣に考えなおし中。




