111 浮き輪
島に着くと、そのまま戸殿家の別荘に直行した。ゆかのお父さんが運転するワゴンで、海辺の邸宅まで。
きれいで自然豊かな島だった。海水浴はもちろん、釣りもできるし、山でヒッチハイクもできるらしい。港でもらったパンフレットを見ながら、一年生は盛り上がっている。
別荘に着くと、軽音楽部には巨大なひとつの部屋が割り当てられた。ダブルベッドが両脇に二つずつ並び、まんなかには丸テーブル。ウォークインクローゼットもあり、おおきなテレビもひとつある。
はしゃいだのは、もちろん、かうな。
「すごい、ダブルベッドだっ!」
「わっ、牛ちゃん、もうのぼってる」
「ダブルベッド、はじめて見ました! わたし、うえで寝ていいですか⁉」
「いいよ。じゃ、だれがどこ使うか、さきにきめちゃおっか」
かうなの下は、シーが使うことになった。で、のこり四人は、みきとねね、しおとゆかの組み合わせ。どちらも、前者が一段目で、後者が二段目だ。
軽音楽部は六人なので、ダブルベッドはひとつ余る。そこは荷物置きにでも使って、と、ゆかのお母さんにいわれていたので、そうする。
「荷物片づけたら、いこうか」
みきの号令で、玄関まででる。潮風がふわりと香る。
またワゴンに乗りこみ、近くのおいしいごはん屋さんまで。島でとれた海産物がメインの、有名なお店らしい。
「ごはんたべたら、どうしよっかぁ」と、ゆか。「早速、海かなぁ。とことん遊びつくさないとね~」
「ずっと移動だったのに、元気だなー。ま、いくけど」
予定もきまった。ごはん屋さんで、おいしい魚料理に舌鼓を打ち、軽音楽部とゆかのお兄さんは、歩いて別荘までもどる。両親は買い出しに、車を走らせていった。
そう遠くなく、十分程度で着く。
水着をとって、裏手のビーチまで。出たり入ったりだ。
で、浜辺の更衣室で着替える。
「ねねちゃん、髪結んで」と、シー。
「え、うちでいいの?」
ねね、たのしそうに、シーの長い髪を編みこむ。器用なもので、あっというまに仕上がってしまう。
「わっ、ねねちゃん、すごい!」と、かうな。
シーも鏡を見ながら、満足そうに肯く。
「みんな、ちゃんと日焼け止め塗った?」
「おー、忘れてた」
「あぶねえな……」
「よぉし、いこっか~」
ゆかを筆頭に、ぞくぞくとビーチに繰り出す。
きらきら輝く海。熱い砂浜をサンダルで駆けて、波打ち際へ。
別荘裏のビーチは、戸殿家の私有地らしい。みきたちのたのしげな声を遮るものはない。あるのは、繰り返す波音だけ。
「くらえ、ねねちゃん!」
「きゃっ、もう、冷たいよー!」
「牛ちゃん、隙あり」
「わぷっ」
一年生、ずいぶんたのしんでいる。一方の二年生は、のんびりしながら、パラソルを立て、レジャーシートを敷く。
「なんていうか」と、しお、一年生を見守りつつ、「ねねって、意外とスタイルいいな……」
「……」みき、なんともいえない表情をして、「まぁ、姉が姉だし……」
「おにいちゃーん、わたしの浮き輪、どこにやったっけ~?」
ゆか、離れたところにいるサングラスの兄に、駆け寄っていく。パラソルの下、ビーチチェアに寝そべって、なんだか知らないが数学書を読んでいる。
「たのしいのかな、あれ」と、みき。
「さぁ……でも、いもうとがいもうとだし……」
浮き輪をもって走ってくるゆかを見ながら、しお、そう答えた。
【陈诗涵 高校一年生】
平川高校の一年生。
クールな見た目で、不思議ちゃん。
夏休みの目標は「お百度参り」。近所のお寺に通っていたが、ねねに「お百度参りは神社だと思う……」といわれ、ショックを受けた。




