110 フェリー
「フェリーって、なんだかわくわくしますよねっ!」
かうな、出港まえのフェリーに乗りこんで、はしゃいでいる。
「牛ちゃん、走りまわると危ないよ」と、シー、たしなめて、「というか、牛ちゃんは乗りなれてるんじゃないの?」
「たくさん乗っても、わくわくが消えることはないんだよっ」
で、かうな、シーとねねを連れて、デッキまででる。それを見守りつつ、みき、
「お誘いいただいて、ありがとうございます」と、ゆかのお母さんに話しかける。
「いいのよぉ。旅行なんて、人数がおおければおおいだけ、たのしいんだから」
「たのしみだねぇ」と、ゆか。「向こうは、おさかながおいしいんだよ~」
やっぱり食のことばかりだった。
三泊四日の旅行、一日目。ちょうどフェリーに乗りこんで、もうすぐ出港の時刻である。
旅行のメンバーは、ゆかの家族――ゆかとお兄さん、ご両親――と、招待された軽音楽部員が五名。戸殿家所有の別荘に宿泊する。
「でも、二時間って、暇だよねぇ」
「ま、そうかもなー」しお、首肯して、「なにする? あやとり?」
「いや小学生か。てかキツいだろ、二時間もあやとりするのか?」
「創作あやとりしようぜ。まず紐という概念からくつがえす」
「それはもうあやとりじゃない」
みき、しお、ゆか、手持無沙汰で、窓際、テーブルのある席にとりあえず座る。ゆかの家族も、ちかくに固まっている。
髪をすっかり短くしたゆか、兄に向かって、
「そうだ、おにいちゃん、オセロない~?」
いうと、でてくる。携帯できる、ちいさめのオセロセットだ。
「いや、これ、ふたり用のゲームだろ」
「あ、そっか~!」ゆか、びっくりして、「おにいちゃん、さんにんで遊べるゲームない~?」
またも、でてくる。ウノにトランプ。旅行の必需品ともいえる道具だ。
「よし、じゃ、みき。これを託す」
しお、トランプをみきに渡す。
「なにやるんだ?」
「まずはシャッフルじゃない?」
「そうか? まぁ……」みき、トランプを繰る。「で、なにやるんだ?」
「扇状に広げて、あたしがカードを選ぶから」
「当てれねえよ。マジックなんてできないっての」
「ざんねん」
いっていたら、アナウンスが流れて、船は動きだした。さんにん、窓の外に視線をうつす。しばらく海を見ながら、雑談する。
「うぅ、先輩……」
と、かうなが帰ってきた。お団子あたまがぼさぼさになっている。
「今日、風がつよくて……」
「そっか。おとなしく、なかにいなよ」
「そうします……」
髪がキマっていないと、気分も落ちこむ。シーとねね、荷物からクシを取り出して、とかしてあげる。
「切ったららくだよぉ」と、ゆか。「そう、このくらい」
「短くなっちゃったもんなー」
「しおは最近、伸びてきたよな」
「あー、めんどくさくて……」
「それもどうなんだ」
「でも、ゆか先輩、ショートも似合ってますよ……!」
「ありがとう、ねねちゃん~」
とはいえ、髪が短いだけで、印象はがらっとかわる。黙っていれば、の話だが。
ゆか、喋りはじめると、かっこよくショートにしても、きゅうにのほほんとした雰囲気をただよわす。
らしいといえば、そうなのだが。
それから、かうなの髪が整うと、みんなでトランプをして盛り上がった。
【大矢かうな 高校一年生】
平川高校の一年生。
元気はつらつ、明るい子。
夏休みの目標は「早寝早起き」。ひとりでは難しいので、いっそのこと、ねねのラジオ体操のボランティアに参加しようかと考えている。




