表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
朝を歩け。  作者: 維酉
1st Album【東へ!】
113/176

108 コーヒー

 みき、喫茶店〈テト〉で働いていると、知ったかおが訪れた。


「あら、もしかして」

「わ、はるちゃん。ひさしぶり」


 遠桜学園の、鏑木はる。このあいだ、コンクール会場で知り合った子だ。


 ひとまず、空いていたカウンター席に通す。水とおしぼりを運ぶと、はる、メニューを吟味している真っ最中。


「みきちゃんは、ここでバイトしてるの?」

「うん。ちょっとまえから」

「ふふ、うれしい偶然」はる、かわいらしくいって、「ね、おすすめはある?」

「おすすめですね。当店自慢のブレンドコーヒーと、たまごサンドが人気です」

「みごとな接客だね」

「からかわないでよ」


 はる、にっこりして、みきのおすすめをそのまま注文する。


 マスターに注文を伝えると、静かな笑みを湛えて、肯く。口数はすくないがおだやかで、彼を慕ってくる客もおおい、名物マスターだ。


 料理を待っているあいだ、はる、店内をぐるりと見回す。


 静かで落ち着いた雰囲気の、品のよい喫茶店だ。派手さのないあたたかみのある照明は、安心感があって、そこにここちよいボサノヴァが流れる。


 喫茶店をめぐるのはすきだが、これほど雰囲気のよい店は、なかなかない。はる、いいところを見つけたと思う。


「かわいいウェイトレスさんもいますし、ね」

「なに、きゅうに」エプロン姿のみき、肩をすくめて、「ブレンドコーヒーとたまごサンドです。ご注文は以上でおそろいですか?」

「うん、ありがとう」


 はる、湯気を立てるコーヒーをひとくち啜る。コクのある苦味と軽やかな風味がひろがって、絶品だ。


 たまごサンドにも手を伸ばす。たまごが主役の濃厚な味わいに、思わず目をみはる。


 でかけに見つけて、たまたま立ち寄った店だったが、大当たりだった。もっと早く知りたかったな、と、またサンドウィッチをひとくち。


 みきは、レジ打ちをしたり、料理を運んだり、忙しそうだがスマートに働いている。はる、食事をたのしみつつ、みきの動きを目で追っていると、


「きみ」と、物静かなマスターに声をかけられる。「夏井ちゃんのお友達かい?」

「はい。学校はちがうんですが」


 はる、微笑んで、


「コーヒーもサンドウィッチも、おいしいです。もっと早く知りたかったくらい……メディアの取材とか、よくくるんじゃないですか?」

「たまにね」と、柔和な笑み。「でも、雑誌とか、テレビとか、そういうのはぜんぶ断ってるんだ。ぼくは静かなほうがすきだから」


 と、接客が一段落したらしい。みき、近づいてきて、


「そうはいっても、お客さんはおおいですよね。常連さんもたくさんですし」

「たしかに。なんどもきたくなる味です」


 はる、肯いて、


「そうだ。みきちゃんも、コーヒー淹れられるの?」

「え、わたし?」みき、目を丸くして、「いや、たまに練習させてもらってるけど……マスターみたいな味には、ちょっと」

「夏井ちゃんはスジがいいからね。夏休みがおわるころには、ぼく並になってるよ」

「やめてくださいよ」


 みき、かぶりを振って、また接客に戻っていく。ポニーテールが、みぎひだり。


 料理を腹におさめて、お会計。価格も良心的である。


「こんど、たまちゃんも連れてこようかな」

「うん、いっしょにきてよ」


 見送ってくれるみきに、はる、笑顔で手を振った。



【玉原しお 高校二年生】


 平川高校の二年生。

 ものぐさ屋で、省エネ人間。


 夏休みの目標は「熱中症にならないこと」。そのため、なるべく外に出ず、過ごしやすい部屋で悠々自適に過ごしている。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ