106 エンペラー
「みきちゃんの水着……」と、うめ、不安そうに、「ほんとうに、わたしが選んでよかったの?」
みき、店員さんから紙袋をうけとって、肯く。来週の旅行に備えて、今日は買い出しにきていた。
ちょうど部活が休みだったうめを誘い、ショッピングモールまで。いくつかショップを渡り歩いて、気に入りを見つけた。
ショップを出て、みき、
「ありがとね。ほら、わたしひとりだと、ずっと悩んじゃってたし。それにうめちゃんのセンス、信頼してるから」
「あ、それはうれしいけど……ののちゃんとかも、力になってくれたんじゃない?」
「いや、まぁ……あの子を呼ぶと、どれだけ試着させられるかわかんないし……」
「あぁ、そうかも」
うめ、納得してしまう。その光景が、容易に想像できる。
「このあとどうしよっか?」と、みき。「帰るには早いし、ほかも見てく?」
「うん。いろいろできてるみたいだし」
今日、きてみると、いれかわっている店がいくつかあった。モールじたい、どうやらリニューアルの真っ最中らしい。
気ままに散策していると、
「あ、ねこカフェできたんだ」
うめ、見つけて、窓から店内を覗いてみる。何匹ものきれいげなねこが、自由にそこらを闊歩して、エサをもらったり撫でられたり、あるいは人間を無視している。
「お金を払ってねこの下僕になる――イイと思いませんか、みきちゃん!」
「うん……いいかたはどうかと思うけど」
ということで、並んでみる。意外とすぐに順番はきて、窓側のテーブル席に通された。
「わ~、かわいい! この子、なんていうねこかな?」
早速うめ、近くにいた、白と茶色の長毛種を撫でている。
「ノルウェージャンかな」と、みき、屈んで、「たしか、首輪に名前が書いてあるって」
「ふんふん。虎太郎っていうんだね」
ほかにも、ねこ、さまざまいる。写真を撮ったり、抱っこしたり、ふたりともたのしんでいる。
「お、コーヒーもおいしい」
みき、座ってひとごこち。コーヒーとチーズケーキは本格的で、たべていると、ひざのうえにグレーの毛並みのねこが乗ってきた。
「わぁ、みきちゃん、ねこにもすかれるんだね!」うめ、写真を撮る手がとまらない。「その子はなんて品種なの?」
「ブリショーだよ。いいかおしてるよね」
名札を見る。ポンデモローマ二世という名前らしい。虎太郎との激しい落差。
「なんというか、勢いがある名前」と、うめの評。「わたしも撫でていいかな」
「だいじょうぶじゃない?」
が、威嚇された。
「どうして……」うめ、かなしそう。「あ、ねこの名簿もあるんだ」
テーブルのうえに、QRコードが載った札があり、どうやら読みこむと名簿が見れるらしい。ためしに、ふたりでサイトに飛んでみる。
「ポンデモローマ二世……」と、うめ、紹介文を読み上げる。「美ねこだが、尊大で、ひとに懐きにくい性格。ポポロンの女王様……だって」
「ふうん、おまえ、女王なのか」
「でも、懐いてるよね」
みきが撫でると、のどを鳴らす。なんだか、最近、へんなのに懐かれやすいな、と思う。
「じゃ、みきちゃん、エンペラーだね」
「やめてよ」みき、苦笑して、「ここで撮った写真、あとでゆかに送ってあげる?」
「うん。きっとよろこぶよ」
退店時まで、ポンデモローマ二世、ひざのうえだった。
【ポンデモローマ二世 ねこカフェの女王】
ねこカフェ〈ポポロン〉の一員。
尊大でひとに懐かない、ブリティッシュショートヘアー。
寄り付く人間を選び、気に入る人間がいないとキャットタワーのいちばんうえに陣取っている。その姿から〈ポポロン〉の女王とあだ名され、かわいがられている。




