105 コンクールおわり
「今日はたのしかった?」
打ち上げ後、帰りの車内で、みい子に訊かれる。みき、肯いて、
「賞状も持って帰れましたし……想像以上でした、ほんと」
「友達も増えたしね~」
いいつつ、ゆか、後部座席であくびをする。緊張も解けて、もうすっかりねむいらしい。
「寝てていいよ、送るから」
と、みい子。
もう時間も遅いので、打ち上げがおわると、車でそのまま送ってもらうことになった。割振りは、朝とおなじで、二年生がみい子の運転する車に乗った。
「新しい友達って、遠桜の子?」
「はい。そういえば、駒取さんともお知り合いなんですよね」
「あぁ、あいつね。わたし以上に抜けてるやつだよ」
「まぁ……」みき、否定はできない。「というか、大元さん、抜けてる自覚あったんですね」
「ナチュラルに失礼だね⁉」
みき、口元を隠して、くすくす笑う。赤信号で止まる。
「まきはね、相手してるとほんとうに疲れるから。あれで、教師に……しかも遠桜みたいに上品な女子高だなんて……」
「めずらしく、手厳しいですね」
「心配なんだよね。うまくやってそうだった?」
「そう……ですね、はい」
「だめそうだな」
青信号。ゆっくり動きだす。
「来週は、海だねぇ」と、ゆか、うしろでねむそうに。「しお、水着、買った~?」
「おー……そういや、まだだった」
「海にいくの?」
「旅行でね~」
「敬語」と、みき。
「旅行でございます~」
「よかですね」
みい子、中途半端に敬語がうつって、福岡なまりみたいになった。
「……」しお、すこしなやんで、「あ、『いいですね』と『余暇ですね』をかけた……」
「やめて、ちがう! そうじゃないから!」
「すごい、面白いね~」
「拍手しないで! みじめになる!」
しおとゆかも、みい子と打ち解けている。年下に振り回されるのを、すなおに「打ち解けた」といってよいのであれば。
しばらくして、ゆか、寝入ってしまった。しおのとなりで、すぅすぅ寝息を立てている。
「海は軽音楽部のみんなでいくの?」
「そうです。みんな、たのしみみたいで」
「青春だね」みい子、遠い目をして、「海なんて、もう何年もいってないな」
「最後にいったのは、いつごろなのー?」
「うーん。あれは、あおばの髪がシルバーだったころだから……七年まえ?」
「髪色で覚えてるんですね……」
それから、みい子たちのむかし話をちょっと聞いた。やがてしお、ゆかの家に着いて、それぞれ降りていく。
車内、ふたりきりになって、
「そうだ」と、みき、思い出したように、「バイトのこと、前田先生にいってませんよね?」
「うん。ギリギリね」
「よかったです」
「場所はいってない」
「ちょっと」
なにかバイトをしていることは、漏らしてしまったかのような口ぶりだ。
「ま、夏休みだし?」みい子、口笛を吹き、「あおばも大目に見るでしょ、たぶん」
「ううん……」
たしかに、前田先生なら、問題ないだろうとは思う。
「いやぁ、ほんと、ごめんね」と、みい子。「こんど、いっぱいたべにいくから」
「約束ですよ」
みき宅に着き、降りる。去りゆく車を見送って、家のドアを開けた。
【駒取まき 遠桜学園教諭】
遠桜学園器楽同好会の顧問。
自称・常識人。
「ベーシストは常識人にしか務まらない」と考えており、自分もまたそうであると自負している。が、だいぶ抜けているところがあり、音楽センス以外はお世辞にもよいとはいえない。




