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朝を歩け。  作者: 維酉
Debut Single【朝を歩け】
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06 ウノ

 今日はクリスマスだった。

 みき、家で待っていると、インターフォンが鳴る。出てみると、買い物袋ひっさげた、しお、ゆか、並んでいる。


「ほんとに来たのかよ」

「待ってたくせに~」

「みきのそーいうとこ、嫌いじゃないぜ」

「うっせ」


 家にあがる、ふたり。


 台所に立つと、もう調理器具、並べてあった。


「みきってかわいいよな」

「なにがだ」

「そういうとこ、嫌いじゃないよ~」

「うっせーって。いいからつくんぞ」

「おー」


 覇気のない、かけごえ。


 クリスマスケーキ、経験があるのは、みきだけだった。あとのふたりは、おかしどころか、料理もほぼほぼ未経験。


 そういえば、とみきは思い出す。先月の調理実習も、ふたり、みきの後ろでぼんやりしていた。


 みきの指示で動く。


 しお、たまごを割る。それをガチャガチャ混ぜるゆか。みきはといえば、オーブンの予熱。


「みき」

「なに?」

「あたしはいま、重大なことにきがついたんだよ」

「……」

「ろうそくがない」

「いいからつくれ」


 さんにんが並ぶにはちょっと狭いキッチン、どうにかこうにか調理すすめて、オーブン投入までこぎつけた。みき、疲れた顔で、


「四十分。ひまだな」

「ウノやるか」

「いいね~」

「ちょっと待ってろ、持ってくる」


 残ったふたり、リビングに出て、こたつに潜る。

 じんわり、あたたかい。


「極楽浄土って、こたつのことなのかな」

「わたしたち、極楽浄土にいるんだね~」

「死んでんじゃねーか」


 思ったよりはやかったみき、そうツッコむ。

 小さな箱からウノのカード取り出して、みき、シャッフル。それから配る。


「ウノのルール忘れたわ」

「お前、いいだしっぺだよな」

「どれがババだっけ~?」

「どれもババじゃねーよ」

「この色とか数字に意味はあんの?」

「ゲームの肝だよ。どうして覚えてねーんだ」

「ねぇねぇみき、この矢印みたいなのは?」

「順番が逆回りになるんだよ。あと手札みせんな」

「うし、はじめっぞー」

「お~」

「不安しかねぇ……」

「ウノ!」

「はえーよ。てきとうすぎんだろ」

「え、あ、ウノ~!」

「流されんな」

「深淵より導かれし、漆黒のカード……いでよ、ワイルド!」

「一番最初にそれ出してどーすんだ」

「これ、つぎは黒じゃないと出せないの~?」

「勝った」

「いや、別になんでもいいよ」

「赤に指定するわ」

「おっけ~」


 そんなこんなで続けていると、三回戦目くらいで、スポンジが焼けた。


 取り出して、盛り付け。生クリームで装飾して、いちごやら、マジパンやらを乗っける。それから板チョコを割って、そのうえに、『Happy Xmas』とみき、チョコペンで書く。


「よし、完成」

「じゃあ食べながら、ウノやろ~」

「ウノ好きだなー」

「いいだしっぺが飽きてんじゃねーか」

「こんなに続くとは思わなかった」

「みき、切り分けて~」

「あたしらだと、確実に台無しにするぜ」

「しゃーねーなあ……」


 六等分にした。三ピース、いま食べて、残りはひとつずつ、みんなで持って帰る。


「ありがとね、みき」

「いーんだよ」

「おし、じゃ、あたしの本気みせるかなー」

「しおだけ勝ててないもんね~」

「とことん運が悪いよな、おまえ」

「あとネタに走るし~」

「ちょっと大真面目になるわ」


 結局、ウノ大会は夕方の五時まで続いた。

 見送りのとき、こういうクリスマスも悪くないんじゃないかと、みきはふたりの背中をみて思った。


【玉原しお Ba.】


 軽音楽部、ベース担当。

 てきとうなことをよくいう。


 天才肌でベースもすぐに覚えたが、変なところで不器用。料理が壊滅的にへた。

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