104 ネーミング
表彰式のあと、平川高校いちどう、声をかけられる。背の高い、スーツ姿の女性だ。
そのうしろには、遠桜学園の、たま。
「お、まきだ」と、前田先生、知り合いみたいなものいい。「そっちも帰り?」
「そうそう」
「ごはん」たま、まきとやらの袖をつかみ、「おごれ」
「いや、あの、わたし、いちおう先生なんですけど……」
「がんばった」
「はい……」
生徒あいてに、弱腰だ。一方の平川高校、前田先生をのぞいて、状況がつかめない。
「あの、だれなんでしょうか?」と、かうな、ひそひそ声で。
「うしろにいるのは、遠桜学園の子、ですよね」
「あっ、準グランプリの……!」
シーのことばに、ねね、びっくりする。今回のコンクールで、遠桜学園の器楽同好会は、初出場にして準グランプリをとるという快挙だった。
ちなみに、平川高校は奨励賞。何十校といたなかで入賞したのは、充分すぎるといってよい結果だ。
「前田先生」と、みき。「お知り合いですか?」
「あぁ、うん。駒取まき。むかしやってたバンドのベース」
「お、きみが、みきちゃんか」まき、はきはきした声で、「はじめまして。いまは遠桜で教師をやってます」
ていねいな自己紹介だ。なんだか、まともなおとなの雰囲気がある。
前田先生が学生時代にやっていたバンド。そのメンバーは、大元みい子しか知らなかった。前田先生もみい子も、ちょっと、まともなおとなっぽくはない。
しかし、ここにきて、きちんとしたおとなが現れた。みき、なぜか感動する。
「あの、まき先生」と、ホールのほうから、遠桜生のはるが出てきて、「客席に、カギ、落ちてましたよ」
「えっ」
「お財布も」
「うそ」
「もう、しっかりしてください。これで今日、なんどめですか」
「すみません、ほんとうに反省してます……」
生徒に叱られている。
前言撤回。へんなおとなかもしれない。
「あおばちゃんの知り合いって」と、しお、小声で。「みんな、あんなかんじなのかー?」
「類は友を呼ぶんだねぇ」
「いってやるなよ、そんなこと……」
みき、苦笑して。
「あ、夏井さん」と、こんどは、はるに声をかけられる。「すみません、先ほどはドタバタして……あの、コンクール、おつかれさまでした」
「おつかれさま。みきでいいよ」
敬語もいらないし、と続けて、
「演奏すごかったよ。準グランプリ、おめでとう」
「ありがとう……紙一重、でした。みきちゃんたちも、奨励賞、おめでとうございます」
「おめでとう」
と、たま、ずいとでてくる。
「あ、そうだ、たまちゃんのお昼ごはん……」
「いいよ、そんな額じゃないし」
「だめだよ。こういうことは、きっちりしなきゃ」
しっかりしている。お金の受け渡しをして、これで貸し借りなし。それがおわると、
「ね、ね、みきちゃん」たま、子どもみたいに目を輝かせて、「わたしのベース、かわいかった?」
「うん。かわいかったし、かっこよかったよ」
「やった」
ちいさく、ガッツポーズ。それを見て、はる、
「すかれちゃったね」と、肩をすくめて、「たまちゃんにすかれると、ろくなことにならないから、気をつけてね……」
「えぇ……」
辛らつだ。ふたりとも、仲がよさそうなのに。困惑していると、
「遠桜って~」と、ゆか、よこから。「バンド名とかあるの~?」
「あるよ」たま、プログラムを開く。「これ。Cute Aggression」
ストレートにこわいバンド名だ。
「由来は訊きたくないなー」と、しお、めずらしく苦笑して。
「深い意味はない。まきの言」
たまのことばに、いちどう、まきを見やる。前田先生と話し込んでいたが、大量の視線に気づいて、肩をびくっと震わせる。
「ネーミングセンス……」みき、思わず口にでる。「わるいですね、すっごく」
「えっ、えっ、なに⁉ なんで急にディスられてるの⁉」
「バンド名、変えませんかっ……?」一年生のかうなまで、いいはじめた。「ちょっと不安になってきました」
「じつはわたしも、そうおもってて……」はる、深刻そうな面持ちで、「あまり、人前に堂々と出せる名前じゃ、ないし」
「考えよう、手伝うから」
みきのことばに、平川高校と遠桜学園、結託し、案を出しながら会場をでた。
【鏑木はる 高校二年生】
遠桜学園高等部に通う、二年生。
おだやかで、おしとやかなおんなのこ。
たまとは幼馴染で、よく身の回りの世話をしている。気まぐれに付き合わされることもおおく、少々疲弊しており、そのせいでたまに毒づくようになってしまった。




