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朝を歩け。  作者: 維酉
3rd Single【夏への扉】
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102 負けてない

 平川高校軽音楽部の順番は、おもいのほか早かった。ほかの高校の演奏をすこし聴けたと思ったら、いつのまにか、じぶんたちの番。


「き、き、き」と、ねね、がちがちになって、「緊張してきました……!」

「みたいだね……」


 舞台袖で、ひとつまえの高校の演奏を聴きながら、だれもかれも、固い面持ち。もちろん、しおは平然としているが。


「だいじょうぶ、ねねちゃん」と、シー、じぶんにいいきかすように、「観客も、審査員も、みな兄弟だから……」

「励ましかたの思想が強いね」


 みき、ツッコめる。なんだかんだ、じぶんも、平静な気がする。


 やっぱり、朝、みい子と軽口を叩けたことが、よかったのかもしれない。


 いま、壇上で演奏しているバンドは、高校生とはおもえないほどしとやかにバラードを演奏している。みきたちが持ってきた曲とは、まったくのまぎゃくだ。


「ねぇ、みき~」と、ゆか、涙目。「すごいいい曲だよ、あれ~」

「そうだけど……おまえ、本番前になると、涙もろくなるな」


 と、まえのバンドの演奏がおわった。たしかに、いい曲だ。ゆかが泣きそうになるのも、わかる。


 ――でも、わたしたちだって負けてない。


「じゃ、いこうか」


 みき、自信に満ちた表情で、いう。おのおの、覚悟をきめて、壇上へ。




   ◇




「乾杯!」


 と、前田先生、たのしそうに紙コップを掲げる。


 午前の部がおわり、軽音楽部いちどう、ちかくの公園で昼食をとることにした。


「いやぁ、いい演奏だったね。あれなら入賞できるんじゃない?」

「ど、どうでしょう……」ねね、まだ手が震えて、「ちょ、ちょっと飲めないかも……!」

「わ、だいじょうぶっ⁉ シーちゃん、ティッシュ、ティッシュ!」


 前田先生、慌てる一年生ににこにこ微笑んで、


「実際、緊張してるのはビシビシ伝わってきたね、うん」

「あはは、若いなー」みい子、となりで笑い、「わたしにもそういう時期、あったよ」

「す、すみません、ほんと……!」

「まぁ、でも、出番は無事におわったし」


 みき、ほっとしたようにいい、お弁当を広げる。どっと疲れた。


 演奏は、ベストを尽くせた。クオリティは文化祭以上のものができたと思う。午前の部ではピカイチだったと、前田先生もいってくれたし。


 顧問なので、たしょうの贔屓目はあるだろうが。


「このあとは、どうするの?」と、みい子。「午後の部も聴いて帰る?」

「大元さんがよければ、そうしたいです」

「あ、わたしのことは気にしないで。待ってるあいだも、やることはいっぱいあるから」

「よっ、売れっ子!」

「あおば、それ、お酒じゃないよね?」


 いちおう、中身をあらためる。きちんと緑茶だ。


「そういえば、賞ってなにがあるの~?」と、ゆか。

「えーっと」みき、たまご焼きをたべつつ、「グランプリが一校、準グランプリが一校、あと奨励賞が何校か……かな」

「まぁ、グランプリはない年もあるんだけど」


 前田先生、緑茶を煽っていう。


「今年はあそこ、でるの? 強豪校の……」と、みい子。

「あぁ、でるよ。でも、わたし、あの高校は興味ないんだよね」

「そうなんですか?」みき、首を傾げて、「興味ないっていうと……」

「いや、ま、全国に行く大本命なんだけどね」


 いいつつ、前田先生、プログラムをとりだして、


「午後の部は勉強になると思うよ。どこもうまいところばっかだし」

「おー、聞いたことある高校がちらほら」しお、覗きこむ。「あおばちゃんの注目株は?」

「これ。遠桜学園とおざくらがくえん


 遠桜学園といえば、平川高校の近くにある、私立の女子高だ。みきも、登校中に、そこの生徒をよく見かける。


「遠桜って、たしか……」みい子、いきなり不服そうにして、「え、でるの?」


 前田先生、肯く。が、みきたち、いまいちわからない。とにかく、遠桜の演奏はかならず聴こうときめた。



【新藤さつき 小学二年生】


 くづきのいもうと。

 天真爛漫なおんなのこ。


 テストで百点をとった日は、すこし晩ごはんが豪華になる。授業でたくさん挙手するので、担任の先生によく褒められている。

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