100 コンクール前日
「じゃ、明日は八時に、駅前集合ね。そこから車で移動します」
前田先生のことばに、部員いちどう、肯く。
八月にはいり、明日はいよいよコンクール本番。あっというまだったが、やれることはやった。
「みんな、今日はゆっくり休むこと。万全の状態で臨むように」
「わかりました!」かうな、力強く返事して、「九時に寝ます!」
「健康的でよろしい」
ということで、解散。みき、ギターケース担いで、階段をおりていく。
「牛ちゃん、あんなこといってたけど」と、みきのうしろで、シー。「ほんとに九時までに寝れるの?」
「だ、だいじょうぶだよ! たぶん」
ちょっと頼りない。みき、聞こえる会話にくすりと笑って、
「そっちもだいじょうぶ?」と、となりを歩くゆかに、訊く。
「だめかもぉ」
「あいかわらず、すなおだな……」
「また夜中に電話しちゃうかもねぇ」
「ま、それはいいけど」
文化祭の前日も、ゆか、ねむれないで、グループ通話をはじめた。今日も、なんだか、かかってきそうな気がする。
みき、うしろを振りかえり、
「ねねちゃんも、心配かも」
「えっ、あっ、うちは……!」もうすでに、かおが強張っている。「せめて占いは見ないようにします……!」
「わたしもそうしようかな」シー、苦い顔で、「運命はみずからでつかみとるものだし」
「おー、かっこいい」
ひとりだけ、しお、能天気だ。いつもどおりの調子である。
みき、頼もしいような呆れたような、苦笑い。
「そういやおまえ、休憩時間になにか読んでたな」
「え? あー、あれね。催眠術の本」
「なんのために?」いって、みき、思いだす。「あ、緊張をとくため?」
「このあいだ効かなかったの、悔しかったから……」
オカルト本だったけど、と、しお、ため息つきつつ、ニヒルな笑みを浮かべる。
後輩おもいなのか、ただの負けず嫌いなのか。どっちもあるだろうが、なににしろ、オカルトをたのしめるくらいには余裕があるらしい。
みきとしても、それはちょっと、うらやましいところだ。
学校をでて、しばらく歩き、それぞれ別れる。みき、ひとりになって、帰りしな、
「あ、みきさん」と、声をかけられる。「奇遇ですね。いま帰ってきたんですか?」
見ると、私服姿の新藤くづき。青いブラウスに、すっとした線のパンツを履いている。
「うん。くづきちゃんは、塾帰り?」
「そうです。ついでに、さつきを拾っていこうと思って」
いもうとのさつきは、近くの公園で、友達といっしょに遊んでいるらしい。夕飯までに帰らすよう、親に頼まれたんだとか。
歩く方向がおなじなので、いっしょにいく。
「軽音楽部さんは、たしかコンクールが近いんですよね?」
「そう。というか、明日」
「そうだったんですね!」くづき、目をみはって、「応援してます、がんばってくださいね」
「ありがと、くづきちゃん」
と、公園に着く。たしかに、小学生が何人かで遊んでいて、そのなかにさつきもいる。
まだ門限まで時間があるという。もうすこししてから、声をかけることにきめる。
「わたし、文化祭、見れませんでしたが」と、ベンチに腰かけ、くづき。「軽音楽部さんのステージ、大成功だったんですよね。みなさん、そうおっしゃっていました」
「部員のみんなが、がんばってくれたおかげだよ」
「ふふ、みきさんのそういうところが、すきなんです」
くづき、にっこり微笑む。なんだかわからないが、みき、恥ずかしい。
「いつかわたしも、軽音楽部さんの演奏、聴いてみたいです」
「うん。機会があれば、きっと教えるよ」
「はい、ぜひ」
それからすこし世間話をして、さつきに声をかける。さんにんで、並んで帰った。さんざんに、蝉の鳴き声がした。
【新藤くづき 帰宅部】
帰宅部の二年生。
品行方正、しかしドがつくほどの天然。
成績は、留学するまえから学年トップクラス。勉強で頼られることもおおい。とはいえ学力以外のパラメータが著しく低い、愛されキャラ。




