97 芸達者
体育館にて、のの、
「うめちゃん、おつかれさま~」と、声をかけにいく。
「あ、ののちゃん。そっちも休憩?」
「うん。いっしょにお弁当たべよ」
うめ、汗を拭きながら、肯く。夏の大会に向けて、バレー部も卓球部も、練習漬けの日々である。
「今日、暑すぎだよねぇ」
体育館の外に出て、日蔭のベンチに座りこみ、のの、ひと息つく。風通しがよい場所で、意外と涼しく、穴場である。
うめ、となりに座って、
「暑いと、あんまりやる気、でないよね」
「うん。なにもこんな暑い時期に大会やらなくたって、いいのにね」
「あはは、たしかに」
で、お弁当をひろげて、ランチの時間。ふたりで雑談しながら、ひとときの休息を味わう。
「そういえば、このあいだ、ねねとガチャガチャめぐりしたんだけど」
「ガチャガチャめぐり?」
「いもうとの趣味なの。そのためだけに、あの子、百円玉貯金してて」
おにぎりを頬張りつつ、のの、
「近くのゲームセンター、あるでしょ。あそこにガチャガチャだけを大量に集めたスペースができてさ」
「へぇ、たのしそう」
「けっこう面白かったよ。最近のガチャガチャって、種類おおいし」
アニメキャラのグッズや、キーホルダー。笑える小物や、意外と実用性のある雑貨まで、さまざまあるガチャガチャを、つぎからつぎへと回してきたという。
「カエルのやつもあったよ。かわいいやつから、リアル寄りのまで」
「わ、ほんと⁉ こんどいってみようかな……」
うめ、カエルの話題には、よくくいつく。
と、校舎のほうから、かすかに楽器の音が聞こえてくる。方向的に、音楽室ではない。軽音楽部だろうか。
「あ、ねねちゃんたち、今日も学校きてるんだよね」
「軽音楽部も本番、近いらしいから……でも、昨日、あの子ってばふしぎな楽器ひいてたな」
「ふしぎな楽器?」
「うん。アコーディオンみたいな、こう、ウネウネしてる楽器なんだけど、ひとまわりちいさくて、鍵盤ついてないの。そのかわり、ボタン押して鳴らすんだって」
「ふうん……?」
うめ、アコーディオンは知っているが、それに似た楽器、といわれてもピンとこない。
と、また音が聞こえてくる。音色はアコーディオンっぽい。
「あ、たしか、こんな音だった」と、のの。「じゃ、いまひいてるの、ねねかな?」
「ねねちゃんって、楽器もできるんだ」
「むかしから鍵盤楽器がすきで、トイピアノとかでよく遊んでたんだ。簡単な曲なら、うたいながらひけるはず」
「すごいね、それ」
「でも、昨日の楽器、鍵盤じゃなかったからな。ずいぶん、むずかしそうだったし」
いいつつ、のの、耳を澄ます。ぎこちないが、単純な調べを奏でているのが聞きとれる。
「たぶんあの子、そもそも、楽器がすきなんだよね」
「そうなの?」
「うん。小学校の鍵盤ハーモニカはいまでも手入れしてるし、リコーダーとかよく吹くし。中学のころは、クリスマスに、えっと……指ピアノ、だっけ? 頼んでたし」
ショッピングモールに出かけると、ひとりで楽器屋にこもることもしばしばだという。
「コレクター気質もあるんだろうな。ガチャガチャすきなのも、そうだし」
「そっか。じゃあ、これからどんどん増えていくかもね、ひける楽器」
「ねねが芸達者になっちゃうなぁ」
のの、にへらといって、また耳を澄ます。お、うまくひいてる、とひとりごちて、やわらかく微笑んだ。
【握津のの バレー部】
バレー部所属の二年生。
だれにでも寛容で、冗談がすき。
成績は非常によい。もとからあたまがよいというより、努力のたまもの。いもうとの勉強をよく見ている。




