96 コンサーティーナ
「ねねちゃん、器用だねぇ」
と、ゆか、スローンに座ったまま、いう。
「いえ、あの……へたの横ずきというか……っ」
ねね、かぶりを振って謙遜する。ひざのうえにあるのは、古いアコーディオン。
「ねねちゃんも楽器ひけたなんて」と、シー、すなおに感心。
「ひ、ひけるというか、鍵盤楽器はただの趣味で……」
いいつつ、アコーディオンを床におろす。昨日、部室に運んできた楽器のひとつだ。
というのも、ねね、じぶんだけ楽器をひかないことに気後れしていたらしい。なにかじぶんも楽器をあつかえれば、つくれる音楽の幅も広がるんじゃないかと、みきに相談してきた。
いちおう、今後パートを増やす予定はないのだが、その心意気やよしということで、方々からいくつか楽器を見繕ってきた。
たとえば、吹奏楽部に頼んで、使っていない古い楽器をいくつかわけてもらった。そのうちのひとつがアコーディオン。
「ピアノとか、習ったことあるの~?」
「そうではなくて、あの、鍵盤楽器がむかしからすきで……鍵盤ハーモニカとか、トイピアノとか、よく触ってたので……」
「独学なんだ。なおさらすごい」
シーのことばに、ねね、ぶんぶんと首を振って、謙遜というかもはや褒めを拒否する。
「吹部からは、ほかになに借りてきたんだっけ?」と、しお。
「うーんと」みき、練習の手を止め、「グロッケン、ボンゴ、マラカス、アゴゴ、タンバリン、ウッドブロック、トライアングル……あと、クラリネットと、ユーフォニアム」
「いっぱいだねぇ」
「最近、楽器をいろいろと新調してるみたいで、古いのが余ってるんだと」
「そうはいっても、おおすぎだろー……」
みき、首肯する。打楽器やアコーディオンはともかく、クラリネットとユーフォニアムとか、吹けないし、すぐ返そうと思っている。
「あとは、前田先生が持ってきたお古のエレキギター、ベース。実家の物置に眠ってたのを見つけたらしい」
「おー、さすがあおばちゃん」
「前田先生からは、ほかにもいろいろ」
先日は扇風機を載せていた荷台に、今日は前田先生が持ってきた段ボール箱がある。
中身を、かうな、さっきからたのしげにあらためている。
「オカリナですね、これ!」
「おー、なにげに実物、はじめて見たかもー」
「これはなんでしょう? 木っぽいですけど!」
「あ、それ、カリンバだよ……!」と、ねね。「アフリカの楽器。うちもいくつか持ってる」
「へぇ、はじめて見た!……あ、じゃあ、これは?」
「わ~、これ、コンサーティーナだ~。なんでこんなの持ってるんだろぉ」
ゆか、蛇腹の楽器をねねに渡して、ひいてみて、と無茶振りする。
「ん、ん……? アコーディオンとおなじかんじ、で、いいんですか……?」
「そうそう、仕組みはいっしょだから~」
「えぇっと……鍵盤じゃないから、音はわかんないですけど……」
両端についているボタンを、いくつかてきとうに押して、鳴らしてみる。とんでもない不協和音だが、アコーディオンよりすこしかわいらしい音色。
「これ、ひけたらたのしそうですね……!」と、ねね、目を輝かせて。「前田先生、ひけるのかな。教えてもらいたいです」
「あんまり見ない楽器だよなー、それ」
「そうだねぇ。日本だとあんまり売ってないし、めずらしいよねぇ」
「あおばちゃん、なんでそんな楽器まで持ってるんだー……?」
「さぁ……あのひと、ところどころ謎だからな……」
二年生、そろって首をひねる。まぁ、ひけるかどうかも含め、あとで訊いてみよう。
「あの、でも、その……」と、ねね、コンサーティーナを見つめつつ、「なんだか申し訳ないです。うちのわがままなのに、たくさん集めてもらって……」
「いやいや、気にしないでよ」みき、やさしい笑みで、「吹部も快く貸してくれたし、前田先生も、たぶんあのひと、ただ楽器を布教したいだけだろうしさ」
それに、吹部に交渉にいった際、ねねの名前がおもいのほか効いた。文化祭のステージで急増したファンは、どうやら吹部のなかにもいたらしい。
そういうと、ねね、縮こまって、
「それ、なんというか、なおさら申し訳ないかもです……っ!」
「え、そう?」みき、苦笑い。「ま、気に入った楽器があるなら、しばらく練習してみなよ。そのほうが、みんなよろこぶだろうし」
「は、はい、がんばります……!」
気負いすぎな感もあるが、やる気があるのはよいことだ。みき、そう思って、じぶんの練習に戻った。
【笹田うめ 卓球部】
卓球部所属の二年生。
しっかり常識人で、聞き上手。
成績は中の上くらい。ゆかと科目選択がおなじなので、いっしょに勉強すると先生役になることがおおい。




