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朝を歩け。  作者: 維酉
3rd Single【夏への扉】
101/176

96 コンサーティーナ

「ねねちゃん、器用だねぇ」


 と、ゆか、スローンに座ったまま、いう。


「いえ、あの……へたの横ずきというか……っ」


 ねね、かぶりを振って謙遜する。ひざのうえにあるのは、古いアコーディオン。


「ねねちゃんも楽器ひけたなんて」と、シー、すなおに感心。

「ひ、ひけるというか、鍵盤楽器はただの趣味で……」


 いいつつ、アコーディオンを床におろす。昨日、部室に運んできた楽器のひとつだ。


 というのも、ねね、じぶんだけ楽器をひかないことに気後れしていたらしい。なにかじぶんも楽器をあつかえれば、つくれる音楽の幅も広がるんじゃないかと、みきに相談してきた。


 いちおう、今後パートを増やす予定はないのだが、その心意気やよしということで、方々からいくつか楽器を見繕ってきた。


 たとえば、吹奏楽部に頼んで、使っていない古い楽器をいくつかわけてもらった。そのうちのひとつがアコーディオン。


「ピアノとか、習ったことあるの~?」

「そうではなくて、あの、鍵盤楽器がむかしからすきで……鍵盤ハーモニカとか、トイピアノとか、よく触ってたので……」

「独学なんだ。なおさらすごい」


 シーのことばに、ねね、ぶんぶんと首を振って、謙遜というかもはや褒めを拒否する。


「吹部からは、ほかになに借りてきたんだっけ?」と、しお。

「うーんと」みき、練習の手を止め、「グロッケン、ボンゴ、マラカス、アゴゴ、タンバリン、ウッドブロック、トライアングル……あと、クラリネットと、ユーフォニアム」

「いっぱいだねぇ」

「最近、楽器をいろいろと新調してるみたいで、古いのが余ってるんだと」

「そうはいっても、おおすぎだろー……」


 みき、首肯する。打楽器やアコーディオンはともかく、クラリネットとユーフォニアムとか、吹けないし、すぐ返そうと思っている。


「あとは、前田先生が持ってきたお古のエレキギター、ベース。実家の物置に眠ってたのを見つけたらしい」

「おー、さすがあおばちゃん」

「前田先生からは、ほかにもいろいろ」


 先日は扇風機を載せていた荷台に、今日は前田先生が持ってきた段ボール箱がある。


 中身を、かうな、さっきからたのしげにあらためている。


「オカリナですね、これ!」

「おー、なにげに実物、はじめて見たかもー」

「これはなんでしょう? 木っぽいですけど!」

「あ、それ、カリンバだよ……!」と、ねね。「アフリカの楽器。うちもいくつか持ってる」

「へぇ、はじめて見た!……あ、じゃあ、これは?」

「わ~、これ、コンサーティーナだ~。なんでこんなの持ってるんだろぉ」


 ゆか、蛇腹の楽器をねねに渡して、ひいてみて、と無茶振りする。


「ん、ん……? アコーディオンとおなじかんじ、で、いいんですか……?」

「そうそう、仕組みはいっしょだから~」

「えぇっと……鍵盤じゃないから、音はわかんないですけど……」


 両端についているボタンを、いくつかてきとうに押して、鳴らしてみる。とんでもない不協和音だが、アコーディオンよりすこしかわいらしい音色。


「これ、ひけたらたのしそうですね……!」と、ねね、目を輝かせて。「前田先生、ひけるのかな。教えてもらいたいです」

「あんまり見ない楽器だよなー、それ」

「そうだねぇ。日本だとあんまり売ってないし、めずらしいよねぇ」

「あおばちゃん、なんでそんな楽器まで持ってるんだー……?」

「さぁ……あのひと、ところどころ謎だからな……」


 二年生、そろって首をひねる。まぁ、ひけるかどうかも含め、あとで訊いてみよう。


「あの、でも、その……」と、ねね、コンサーティーナを見つめつつ、「なんだか申し訳ないです。うちのわがままなのに、たくさん集めてもらって……」

「いやいや、気にしないでよ」みき、やさしい笑みで、「吹部も快く貸してくれたし、前田先生も、たぶんあのひと、ただ楽器を布教したいだけだろうしさ」


 それに、吹部に交渉にいった際、ねねの名前がおもいのほか効いた。文化祭のステージで急増したファンは、どうやら吹部のなかにもいたらしい。


 そういうと、ねね、縮こまって、


「それ、なんというか、なおさら申し訳ないかもです……っ!」

「え、そう?」みき、苦笑い。「ま、気に入った楽器があるなら、しばらく練習してみなよ。そのほうが、みんなよろこぶだろうし」

「は、はい、がんばります……!」


 気負いすぎな感もあるが、やる気があるのはよいことだ。みき、そう思って、じぶんの練習に戻った。



【笹田うめ 卓球部】


 卓球部所属の二年生。

 しっかり常識人で、聞き上手。


 成績は中の上くらい。ゆかと科目選択がおなじなので、いっしょに勉強すると先生役になることがおおい。

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