95 アホウドリ
夏休みの練習、初日。
みき、朝十時に国研までいくと、顧問の前田先生が待ちかまえており、
「待ってたよ、夏井さん」と、手招きされる。「今日はいいもの持ってきたの」
「いいもの、ですか?」
見ると、前田先生のうしろに、扇風機が三台ある。
「あの部室、すっごく暑いでしょ。だから倉庫から引っぱり出してきたの」
「まぁ、クーラー、ないですからね」
部室にあるのは、壁に取りつけられたちっぽけな扇風機二台。夏の盛りには、正直、貧弱な設備である。
「いちおう、ぜんぶの教室にエアコンつけようって話は出てるのよ。ただ、早くても冬休みになるみたいで」
「まぁ、それまでは……我慢ですね」
「ごめんね。ひとまず、こいつらでやり過ごしてもらえると」
「遠慮なくもらっていきます」
で、みき、台車に扇風機と延長コードを載せて、部室まで。鍵をあけるころ、何人かが階段をのぼってくる足音が聞こえる。
あらわれたのは、一年生のさんにん。
「あ、みき先輩!」と、かうな、とびきりの笑顔で。「おはようございます」
「うん、おはよう」
「それ、扇風機、ですか?」ねね、台車を指さし、「わ、みっつある」
「そうそう。たまには、前田先生も仕事するんだよ」
「さすが、我らが顧問ですねっ!」
とりあえず、扇風機をなかに設置する。延長コードを駆使しつつ、よいかんじに配置して、フル稼働。
もとから付いていた二台も電源をいれ、窓を開放する。心なし、まえより涼しい気がする。
「これ、意外と快適かも」
「そうですね」シー、首肯して、「まえが暑すぎただけかもしれませんけど」
「いや、まぁ……そうだね」
「でも、これで練習しやすい環境になったってことです!」
「うん。あ、けど、水分補給は忘れずにね」
と、かうな、新しい扇風機のうち、一台のまえに腰をおろし、
「あー」と、声をだす。「おぉ、ほんとにガラガラだ!」
「ベタだね、牛ちゃん」
「ベタだけど、うちに扇風機ないからやったことなくて」
「ふむふむ」
シー、となりにしゃがみこんで、「あー」とまねてみる。震える声に、かうな、ケタケタ笑っている。
「たのしいね、これ」
「でしょ! ねねちゃんもどう?」
「え、えぇっと、うちは……」
恥ずかしがっている。が、かうなはその手を引いて、
「なんだっけ、えーっと」
「わ・れ・わ・れ・はー」と、シー。「じゃない?」
「そう! わ・れ・わ・れ・はー……」
「ご唱和ください、ねねちゃん」
「え、えぇ……⁉」顔をまっ赤にしつつ、「わ、わ・れ・わ・れ・はー……」
「う・ちゅ・う・じ・ん・で・あ・るー!」
「うぅ、う・ちゅ・う・じ・ん・で・あ・るー……!」
「よくできました」
褒めるシーに、あたまを撫でられる、ねね。ケタケタ笑うかうな。さんにんのようすを、みき、微笑ましいと見守る。
「でも、どうして宇宙人なんだろうねっ?」
「たしかに。アホウドリでもいいわけだもんね」
「そ、それはどうなのかな……?」
「試しにやってみよう」
かうな、アホウドリを自称する。意味がわからない。
「なにやってんだー?」
と、しおとゆか、到着する。
「未知との遭遇です」と、シー、あいかわらず。
「扇風機いっぱいだねぇ」ゆか、マイペースに。「わ・れ・わ・れ・は・う・ちゅ・う・じ・ん・で・あ・る~」
「おー、未知との遭遇」
しお、納得してしまった。とはいえ、全員そろったので、各自、練習にはいる。
【握津ねね ボーカル担当】
軽音楽部の一年生。
極度の人見知りで、緊張しい。
軽音楽部一年生のなかでは、いちばん勉強が得意。ただし古典は苦手で、期末試験でもずいぶん苦労した。




