葛藤と崩壊
駅のホームから出てきた父さんの後を離れた場所で様子を見る。
本当にこの世界があの時の再現だとするならば、この後父さんは通り魔に襲われて死んでしまう。
この試練には必ず関係があるはずだ。
・・・タダシイコウドウヲセヨ
あのビー玉から浮き出た文字を思い出す。
正しい行動、父さんの命を助けることだろうか。はたまた父さんを見殺しにすることだろうか。
「...簡単で複雑で単純で難関な素直でへそ曲がりな試練、か。」
まるで天邪鬼な言い方が妙に引っかかる。
ビー玉にひびが入ったのだってそうだ。
はじめ母さんと遭遇した時はくすんだだけで済んだ。
だが今は遠目で父さんを見つけただけでひびが入った。
それだけ動揺しているということなのだろうか。
ビー玉の色もますます黒くよどんでいる。
なぜかこれをこれ以上割ってはいけない、そんな予感がするのだ。
「...そもそもこのビー玉はなぜ俺の心を反映するんだ? その意図は何だ?」
何かつかめそうな予感がした。
しかし住宅街の中を歩いている父さんに怪しい男が近づいてきたのでその考えを一度放棄する。
男はフードかぶり、両手をポケットに入れてじわじわと距離を詰める。
「あの男だ・・・」
あのフードの下でにやけているあの顔を俺は知っている。
あいつが父さんを殺し、我が家をめちゃくちゃにした男だ。
「父さん、危ない!!」
必死に叫ぶが俺の声は届かない。
男を捕まえようとするが俺の手はその体をすり抜ける。
物を投げて音を出そうとしてもなぜか先ほどのようにつかむことができない。
「なんでだよ! さっきはできたのに、クソ!」
焦る。
このまま何もできないまま目の前で父さんは殺されてしまうのか。
・・・タダシイコウドウヲセヨ
(なーに。今から君に簡単で複雑で単純で難関な素直でへそ曲がりな試練を受けてもらいたくてねぇ。)
「天邪鬼、正しい行動、ビー玉のひび割れ」
焦って逆にあたまがはたらいた。
とっさにポケットからビー玉を取りだす。
男は服の内側からきらりと光る包丁を取り出し、かまえる。
さっきよりもひびが増えたビー玉を俺はアスファルトの地面に思いっきりたたきつける。
男は俺の体をする抜け父さんの背中に包丁を突き刺そうとする。
地面にたたきつけられたビー玉は
パリン
と音を立て砕け、夜の闇に沈んでいった。
それと同時に俺自身もビー玉と同じように闇が広がる地面に沈んでいった。
◇◆◇◆
気づくと菊池楼は青空の下にいた。
いや、ここは飛ばされる前のあの空間である。
パチパチパチパチ
「いや~ご苦労様♪ まさか帰ってくるとは思わなかったよ~」
音に振り向くと白い椅子に座ったショタが拍手をしていた。
「まぁまぁ、積もる話もあるだろうがいったんこちらに座って紅茶を飲んで一息つきなさいな。」
「...」
菊池楼は何も言わず進められた席に座り、出された紅茶を一息で飲み干した。
「いやいや、かな~りぎりぎりだったけど合格合格♪ 何度かこの試練を行ってはいるけどもほとんどは不合格なんだよねぇ~」
「...」
「いや~ 君とあったときも思ったけれど、君もなかなかくるっているねぇ」
ピクッ
菊池楼の空いたカップに紅茶を注ぎながらショタはくすくす笑う。
菊池楼はそんなショタを人にらみすると静かに口を開いた。
次回「答え合わせ」
更新日 未定