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丸腰で敵と当たれと仰る!?


「あなたも、黙ってないでなんとか言いなさいよっ」


 ひょっとして「女の子の日」だったりするのか、高梨は俺の隣に立つ、由美にまで八つ当たりした。


「様付けで呼ぶとか、霧崎君とどういう関係なのかしらっ」


 悪いが、由美は俺以外の人間ごときには一片の関心も持たないので、やむなく俺が代弁してやった。


「由美本人によれば、元の世界じゃ俺と主従関係だったそうな。だから、俺がこの世界に転生したのを察知した時、自分も急いで世界を渡ってきたらしい」


 どうせ信じないだろうから、ずばり教えてやった。

 そして、これは言わなかったものの――さらに付け加えるならば、由美はかつての魔王だった俺が、膨大な魔力と己の血を使って生み出した、一種のホムンクルスらしいのだな。


 無論、本人がそう申告してるだけだが……最近の俺は、強く否定できなくなっている。

 普通の人間じゃない証拠なら、俺自身を含めて山ほど見たからだ。


 しかし当然ながら、高梨は俺の紹介など、一ミリも信じた様子がなかった。

 むっとしたように俺達を見比べると「からかわないでっ」と怒ったように言い、ずんずん歩き去ってしまった。


 ……正直に教えてやったんだがな。

 まあそのうち、仲直りの機会もあるだろう。


「戻って、今度こそメシにするか?」

「はいっ」


 由美が嬉しそうに頷き、俺達もその場を去った。


 





 食事後、俺達はそれぞれの部屋に戻り、後は何事もなく寝た。

 翌日、俺は由美と二人でまたしても寮を出て、今日一日で敷地内を見て回ることにした。

レストランで朝食を摂った後、ぶらっと東側校舎の方へ向かう。


 ちなみに、明日には集団戦とやらがあるせいか、今日までは基本的に学校は休みらしい。それでも作戦とやらはあるようで、校舎一階にある掲示板にその日行われる作戦とやらが張り出してあった。


「なになに? ナイトの柏崎以下六名、神田町に出動。あとは、ボーダーの潜伏先と思われる各街の、哨戒任務? 希望者は申し出ろって?」


 俺が知る限りじゃ、街に妙な連中が現れ始めたのは、ここ一年くらいの間の気がする。

 しかし、こんな学校まで設けられるからには、政府の方ではもっと前から察知してたのかもしれない。


「そういやネットでも、『最近、頻繁に起こる退避命令と交通規制』なんてスレが立ってたなあ」


 俺が思い出して呟いた途端、なぜか校内中に鳴り響く警報が始まった。

 もうなんというか、聞いてるだけでいてもたってもいられない切迫感があるような脳天に突き刺さる音で、廊下を歩いてた女の子達も驚いたように立ち止まっている。


 やかましいから校舎から出るか? と俺が思い始めた時、女性の冷ややかな声が放送を始めた。



『全館に緊急警報。何者かが、エレベーターシャフトから当学園の敷地内に侵入した形跡あり。当方のビショップが探査したところでは、侵入者はボーダーの可能性が高く、東側校舎内のどこかにいると見られる。一般生徒は、直ちに寮内の自分の部屋にて待機。各ナイトは、専属の部下を集めた後、武装してすぐに東側校舎へ向かい、徹底的に精査せよ。……これは訓練ではない! ただちに行動せよっ』



 言いたいだけ言うと、放送は切れた。

 ただし、警報は音が小さくなっただけで、途切れずに続いている。


「……侵入したって言ってるよ!」

「え、この校舎っ」

「ボーダーって、人の身体を乗っ取って操るんだよね?」


 俺達に近い位置にいた女の子三人が慌てたように言っていた。

 このうろたえぶりからして、ポーン未満の新入りだろう……俺も本当はそのはずなんだが。

 ちなみに彼女達はきょろきょろした挙げ句、俺達に目を留め、悲鳴を上げて走って逃げちまった。


「俺、ひょっとしてボーダーだと思われたかな?」

「ものの役に立たない子達ですね」


 どうでもいいが、侵入した奴は、どうやら俺達が今いる校舎のどこかにいるそうな。


「俺、一応はナイトってことにされてるけど、まだ武器の在処も知らないし、無視してここを出ちゃっても問題ないな」


 そういうわけで、そのまま由美を連れて校舎を出ようとしたが……そうは問屋が卸さなかった。

 今度は藤原の声で、いきなり指名が掛かったのだ。



『監視カメラの映像を今確かめた。霧崎君と桜坂君は、五分前に東側校舎に入って行ったね? 霧崎君、まだそこにいるなら、君も敵を探してくれ。ボーダーは既に女子生徒を乗っ取って移動中だ。君は鼻が利くそうだから、ぜひとも頼む。被害の拡大を防いでくれ』



「くそっ。鼻が利くとか、余計なこと言わなきゃよかった。丸腰で敵と当たれと仰る!?」


 一応廊下の天井を向いて叫んでみたが、あいにく放送は一方通行らしい。

 ああ、そんなことだろうと思ったよ。

 おまけに、外のシャッターが一斉に下り始めたしな。


「どうします?」

「まさか、今からトンヅラするわけにもいかないさ。ボーナスに期待して、協力しよう。そばまで近付けば、敵がわかるだろう」


 俺はやむなく、その場で決断した。


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