俺の側近に手を出すヤツは、身内だろうと容赦はしない
だいたい、案内役の戦闘機はどうも王宮より空港へ誘導したいようだが――俺達が空港へ行く意味、ないだろうが。
三人そろって飛んでるのは確かだが、滑走路なんか必要ないんだし。
そう思った俺は、王都の南部にある高台に位置する城へと、勝手に飛んで行く。
途中で戦闘機が慌てたようにまた誘導を試みたが、俺は無駄と知りつつ叫んでやった。
「空港を目指しているようだが、悪いが時間の無駄だ! 俺は直接城へ行かせてもらうっ」
それを最後に、一瞬で加速して振り切ってやった。
じらされるのは飽きた。
記憶が戻らない身としては、そろそろ前世の妹とやらも見たいしな。
……問題の城へは、それこそ一瞬で到達したが、驚いたことに、既に白亜の城の中庭辺りに、メイドさんみたいな衣装着た、銀髪の女の子が二人、こっちを見上げているぞ。
両手を振っているし、あそこへ下りていいってことだよな。
戦闘機で出迎えたくせに、ここにも迎えがいるのは謎だが……まあ、考えても仕方ない。
「よし、ゆっくりと降下する。二人とも一応、周囲を警戒してくれ」
『はいっ』
頼もしい返事に思わず、腰を抱く力が増す俺である。
そういや、今のうちに訊いておくべきか。
「由美、俺の妹らしきその……えー、フェリシー・ド・ソランだったか? とにかくその子のことで、なにか注意する点は?」
「そう……ですね、丈さまは別に問題ありません。危険があるとすれば、わたしとリーナです。殺されないように注意する必要があります」
「えっ」
俺ではなく、左隣のリーナが声を上げた。
「な、なぜ私達が?」
「わたしとリーナが女の子で、丈さまのおそばにいるから」
しれっと言い切った由美の説明が、またなんとも。
「そ、それだけで殺すのっ!?」
「それだけで、あのお方にとっては十分なの。わたしも、そこは理解できるのだけど、だからといって殺されてあげるつもりはないわ」
由美が軽く首を振る。
当たり前のように言うのがたまらん。まあ、こいつはそういう子だが。
王女についても、どうもよく聞いておいた方がよさそうなので、俺は降下速度を落とした。
「だとしても、おまえがそう簡単に敗れるはずもないだろ? 実際に争いになったことはないわけか?」
「いえ、何度かあります。わたしとあの方の実力はかなり近いですが、それでも丈さまの仰る通り、容易く殺されるわたしではありません」
由美は制服姿のまま、誇らしげに胸を張った。
「ただ……我が君の御妹君ということで、わたしの方が遠慮していたのです。あとで争いを知った丈さまが、あの方をキツく叱ってくださったので、以後は直接対決はなかったですが」
「そうか」
俺は顔をしかめ、何かを期待するように俺を見る由美と、そして不安そうなリーナに言い聞かせてやった。
「そういうことなら、安心してくれ。先に向こうに警告しておくし、もしそれでも危険そうなら、もはや処置なしとして、この俺が手を下す。俺の側近に手を出すヤツは、身内だろうと容赦はしない」
きっぱりとした口調だったせいか、二人とも甘い吐息を洩らした。
……別に当然のことだと思うんだが。
話は決まったので、そろそろと降りて行き、ついにちらほら雪が残る中庭に着地した。この辺の気候は、日本の四月とは全然違うようだ。
比較的標高が高く、山にも近いせいだろうか。
「ようこそ、ソランへ!」
「殿下が王宮でお待ちです」
二人同時に、別々のことを述べるメイドさん達である。
落ち着き払っていて、とてもボーダーの大軍が間近に迫っているようには見えない。実際は本当に迫っているんだが。
すぐさま歩き始めた二人を追いつつ、俺は尋ねてみた。
「現状は、もちろんわかっているよな?」
「承知の上でございます」
「覚悟は出来ております」
二人揃って言ったが、同じ銀髪でもショートカットの方が、あえて振り向いて述べた。
「ですが殿下は、『貴方様さえ到着すれば、まだ勝機があります』と仰せでした」
「ほほう?」
あのスットコ機と、瞠目するほど使えない野郎共を見た結果、俺は少々「俺の妹って情報、ガセじゃね?」と思っていたところだった。
だが、まだ本物の希望はあるかね?
……王宮の中へ入ると、二人のメイドさんはややほっとしたらしい。
さっきよりは歩き方に余裕が出るようになり、やがて螺旋階段を上って三階へと至った。ちなみにその間、大理石張りの廊下にも広間にも、誰の姿も見えなかった。
「我が君、ご無礼を」
こそっとリーナが耳打ちした。
「既にご承知かと思いますが、この先の大広間に、大勢の気配があります。お許しを頂ければ、先行して私が――」
耳を傾けたのはそこまでで、俺は今度は腰の代わりに、気安く肩を抱いて頬を寄せた。
「ならばなおのこと、俺が先だ。判断は俺に任せてくれ。こんなつまらないことで、おまえを失いたくない」
「……うっ」
赤くなって絶句してしまった……可愛いな、この子。
由美は膨れていたが、俺があいつを入れなかった理由も、よくわかっているはずだ。
「よろしいでしょうか」
重厚な両開きの扉を前に、ショートカットの子が尋ねる。
俺はひそひそ相談などなかったような顔で、大仰に頷いた。
「いつでもいいよ」
二人のメイドさんは緊張した顔で頷き、左右に分かれて扉を大きく開けた。




