全て、我が君の御心のままに
由美が嬉々として機外に出た少し後、また操縦席の方から男達の喚き声が聞こえた。
大方、由美の大規模魔法とかギフトにびびったのだろうが――おっと。
ふいに機体の上の方で、何かが雪崩のような勢いで当たる音がした。
『おい、君の相棒がっ』
例の若造パイロットがまたマイクで喚いたが、俺は機先を制した。
「落ち着けっ。由美が戦闘状態に入っただけだ。ということは、そっちの敵はもう気にしなくていいし、機体にガンガン当たってるのは、俺がちゃんと防御してる。そう見えなくてもな」
『しかし、このわけのわからない真紅の光撃は、君の相棒が』
「わかってると言ったぞ! 俺が由美にそう命じたんだよ。ここは俺が防ぐから、おまえは迎撃に専念しろと。つまり、想定内だ。あいつは念には念を入れて、攻撃範囲を広くとってるだけにすぎない。それより、もちろん今の空路は、おまえらの国までの最短コースなんだよな?」
『いや、違う。一旦、友好国のロシアへ、つまりシェレメチェボ国際空港に、民間機を装って、給油に立ち寄る。この機体では、本国まで一気に飛べないんだ』
「そのややこしい名前の空港、どの辺にある?」
「我が君、私がご説明致しますっ」
パイロット野郎の代わりに、リーナが素早く、そして分かり易く説明してくれた。
有能で助かる!
で、理解した結果――そのややこしい空港は、位置的にはまあ、目指す方向とそう変わらないとはいえ、ちょっと北方にズレているな。前に聞いた東ヨーロッパのソランからは、無視できないくらい離れているのだな。
世界地図を頭に描いて考えると、ロスが大きすぎる。時間の無駄だろ。
『おい、君の相棒、敵を一掃したのはいいが、地上のタイガが、あの娘の真っ赤な光撃で、広範囲に焼き払われたぞっ』
「それが? なんか文句でもあるのか?」
俺はそっけなく言い返した。
「心配しなくても、火事にはならないよ。魔力をカットした途端に、多少火が出てもみんな消える。だいたい、人なんか住んでない場所だろ」
『確かに人は住んでいないが……ま、魔力って』
「それより、給油のことは金輪際、忘れろ。ここから最短コースで本国、つまりソランまで向かうんだ。こうなったら、寄り道なんぞしてる場合じゃない。なにしろ、敵に気付かれてるからな」
『無茶苦茶言うなっ。言ったはずだ、給油ナシだと本国までたどり着けないんだっ』
「覚えてるよっ。だから、足りない分の距離は俺の力で、このスクラップ間近のロートル機を飛ばしてやる。やりたくないが、しょうがない」
『君は――何をわけのわからないことを』
「我が君がその気になれば、こんな機体くらい、その御力で飛ばせるということ! そのくらい、どうしてわからないのっ」
『そんな馬鹿な話があるかあっ。だいたい国際法や航空法から見ても、あらかじめ友好国に通達したフライトプランの変更が、簡単に行くはずはっ』
ヒステリー一歩手前の喚き声を聞いた途端、俺は決断した。
なにか始めるごとに説明して納得させていたら、めんどくさくてしょうがない。
そもそも、自分らの国が滅びかけてるのに、国際法がどうのとか言ってる場合じゃないだろ。
「ああそうかい。わかった、話は終わりだ!」
最後まで聞かず、俺はびしっと言った。
「おまえ達は、そのナントカ空港へ行けばいい。俺達は別行動を取る。これが最善だと、今俺が判断した」
『君の判断がどうとかではなく――』
「話は終わりっ。以上、解散っ!!」
俺は恫喝気味に言い返し、さっと手を上げた。
途端に、操縦席の方からまた悲鳴の合唱があった。まあ、マイクごと回路を焼き切ってやったからな。これで馬鹿らしいやりとりせずに済むぜ。
「最初から、こうすべきだったなぁ?」
「よきお考えです!」
リーナを見ると、艶然と微笑んでくれた。
おお、なんかこの子、美人度が最初と比べて激烈アップしてるな。
ツインテールを解いてロングに戻すと、切れ長の目が美しい、モデルさんみたいな外見に変化した気が。
余裕でパリコレとかに出られそうだ。
俺が見つめると、少し赤くなって目を逸らしたりして、可愛いのは相変わらずだが。
「全て、我が君の御心のままに……」
「ありがとう!」
そこでちょうど、由美がまた天井から透過して戻ってきて、何事もなかったように俺のそばに立った。
なぜか景気悪い顔だが、どうせ「敵が弱すぎて~」とか思っているんだろう。
「よくやった、由美。あと、おまえのいない間に状況が変化した。パイロット達との意見の違いで、俺達はここから別行動だ」
途端に、ぱっと由美の顔が明るくなった。
「では、わたしがっ」
「いえ、今回は私がっ」
それぞれ申し出てくれたが、俺は笑って首を振った。
「悪いが、一番速いのは、おそらく俺だ」
言下に二人の臣下を両手で引き寄せる。
最後に俺は、隠しカメラで見ているであろう機内の連中に、手を振ってやった。
「じゃあな! 小物臭漂う君達と一緒で、実に楽しかったよっ」
皮肉を別れの挨拶代わりに、俺は由美と同じ要領で、機内から飛び出した。




