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丈さまに褒めて頂こうと思ったのに!


 一方、機外へ飛び出した由美は、猛スピードで飛びながら、前方を確認する。

 耳がよいせいで、パイロット席の方から男達のうるさい悲鳴がまだ聞こえていたが、そちらは見向きもしなかった。


 長い黒髪をなびかせ、一直線に敵へと向かう。


 今こそ自分の、つまりあのお方の力を示す時なのだ。

 どういうことか? まず、由美に言わせれば、神の化身も同然の丈自身は例外として、全ての生物には二種類しかいない。


 言うまでもなく、「あのお方(丈さま)の手で創造された者か、そうでない者か」である。


 そして、由美の知る限りでは、魔獣の創造こそ幾多の例を見てきたが、人型で、しかもあのお方専属のホムンクルスとなると、今のところ、自分しかいない。

 普段の由美は、丈と女性が話しているだけで、狂おしいほどの嫉妬心に駆られるが、それでも辛うじて「駄目駄目っ。同じく臣下なのだから、仲良くしなければ」と思えるのは、そういう自負心があるからこそである。


 あのお方の手による、唯一のホムンクルス戦士である自分が、つまらない嫉妬心で相手を殺すべきではない。この矜持がなければ、由美はとうに些細な理由で丈と関わった女性を殺すか大怪我させるかして、丈の怒りを買っていたはずだ。


 そんな事態がもし本当に起これば、由美は羞恥のあまり自死を選んだだろう。

 まあ、相手が丈の臣下ではない場合は、場合によっては本当に殺すが。


「だからこそ、こういう時にこそ、丈さまの手によるホムンクルス戦士の真価を見せなければっ。わたしの立場と武功のためにも、ぜひ死んでっ」


 物騒なことを呟き、可愛い舌先が一瞬、桃色の上唇をなぞった。

 本当に武功を立てると、時にあのお方はご褒美をくれるのだが、嬉しいのは当然としても、由美としては多少の不満もある。

 別に銅貨一枚もらえないとしても、丈が頭でも撫でてくれれば、自分はそれだけで幸せなのである。


 いや、撫でるのは抜きで、単に笑顔を見せてもらえるだけでも、喜んで命でも投げ出すだろう。




  

「数、およそ九十匹……なるほど、丈さまの仰る通り、○レムリンに似てるわね。ハリウッド映画で出てくるようなタイプに近いけど、羽が生えてて顔がより醜いわね」


 とはいえ、丈の命令は迎撃なのだから、殲滅すればよい。戦術的にも、一番好みだった。

 ただ、「あのお方が今後の方針を決める材料にするため、多少の会話くらいして、情報を引き出すべきか?」と一瞬だけ思ったものの、どうも言語変換魔法でも解読できない叫び声なので、そもそも言葉を持たないのかもしれない。


「わかりやすくていいわ。では、そのまま死んで」


 超高速飛行状態から、一瞬で空中に停止し、由美は両手を広げる。

 人間が同じような急停止をやらかせば、過剰なGに耐えられず、内蔵破裂で死ぬのがオチだろう。いや、魔族ですらそうそう同じ真似はできない。

 だが、由美にとってはさしたることでもなかった。


「わたしを倒せる唯一の存在は、我が神であり、我が創造主でもある、丈さまお一人のみ。数多の世界の強敵が来ようと、断じて遅れなどとらないわっ。――散りなさい!」


 その声に応じて、彼女を中心に数百もの真紅の光球が周囲に散った。

 空中でさらに幾度も増加を繰り返し、わずか数秒で数千もの真紅の光球が、夜空に散った。無論、その下には○レムリンモドキ達がいる。


 真紅に染まった夜空を見て、かなりギャーギャー鳴いたが、停止せずに突っ込んでくる方を選んだらしい。


「いいわね、そうこなくてはっ」


 由美は、赤く染まった切れ長の目を細め、微笑した。

 ……自分が強さを示せば示すほど、互いの創造主の格の違いが明らかになる道理だ。


「うふふっ。それではまず、小手調べといきましょうか。おまえ達の創造主が誰かは知らないけど、せいぜい力を見せるがいい!」


 丈さまに褒めて頂くんだからっ、という部分はあえて口にしなかった。






「わたしを楽しませてっ。ルナテイックレッド!」


 由美の声に応じ、さらに続々と増殖を続けていたテニスボール大の光球が、雨霰とばかりに、地上へ向けて降り注いだ。

 化け物達は恐怖の鳴き声を上げつつ、回避を試みるが……そもそも、数が多すぎる。たちまち全身を穴だらけにされて即死し、そのまま墜落していく。


 もう少し気の利いた奴は背中を変形させて硬化し、器用にもバリア代わりにしようとしたらしい。……らしいというのは、どのみち彼らの肉盾では、由美の光撃は防げなかったからだ。

 一瞬たりとも防御にならず、仲間と同じくやはり墜落していった。


 ものの数秒後には、夜空はすっきりして、平然と浮かんでいるのは由美だけだった。



「……えっ」



 逆襲に備えてさらなる強大な力を振るおうとしていた由美は、綺麗に敵が消えてしまったことに気付き、数秒ほど眉をひそめた。

 ようやく本当に倒してしまったことに気付き、肩を落とす。


「丈さまに褒めて頂こうと思ったのに……こんなんじゃ駄目じゃない……ばかっ」


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