うわ、マジで女ばかりらしい
校内に車でそのまま乗り付け、寮のそばで降ろされたが、この寮たるや、見た感じは五階建ての高級マンションそのものだった。
ただし、なぜかさらに豪華そうに見える他の寮らしきものが、外の公園に建ってたりするんだが。
「あそこも寮か?」
「あそこはさらに設備がよくてね。こっちにも専用浴場はあるが、あそこには三種類のサウナが装備された、呆れるほど大きな温泉大浴場があるよ。それにフロントまであって、大抵のことは聞いてもらえるねぇ」
俺と由美が、「なんでそっちは駄目なのさ!」という思いを込め、藤原を見つめると、こいつはニヤッと笑った。
「実戦成績よければ、すぐに住めるぞー」
「なにが住めるぞーだ。要は、あれも餌か」
「その通りだとも」
悪びれずに頷き、彼は懐から黒いカードを二枚出し、俺達に一枚ずつ渡してくれた。
「ひとまず、そこに三十万ずつ入っているよ。仮に全部使っても、マイナス表示になるだけだが……それは政府に対する借金となり、あとあと無理な要望が来たりするから、気をつけてくれたまえ」
「食費と家賃はロハなんじゃ?」
「そうだけど、食事の方は専用のフードコートで、無料コースしか食べられなくなる。それだと、若い君達にはだいぶ不足だと思うね。メニューが貧相なので」
「フードコートって、デパートにあるようなアレか? うわ、ひでー」
あくどいやり方に、思わず笑いが込み上げた。
「いい生活したけりゃ、外で化け物を狩れって?」
「それが一番だ。単なる見張りとか、戦い以外の作戦行動でも、謝礼は出るけどね。お金があって困ることはない。がんばりたまえ」
「化け物狩りは、すぐに参加させてもらえるのか?」
「毎朝、校舎一階にその日行われる作戦が書いてある。希望者はランクによって参加できるが……君達は私の贔屓だからな……最初から参加できるようにしておこう」
親切なんだか、獅子が我が子を崖から突き落とす心境なのか、適当な説明だけした後、藤原と運転手はさっさと車で姿を消した。
家から持ち出したボストンバッグの荷物はそのままであり、俺と由美は荷物を抱えて、早速寮内に入った。
自動ドアをくぐって、いきなり気付いたことがある。
「うわ、マジで女ばかりらしい」
俺は常人より遥かに鼻が利くのですぐわかったが、これだけ香りが強いと、おそらく普通の男子でも違いはわかるはずだ。
しかもこれ、多分年齢もすごくバラけてるぞ。
「これで男女の区別なく一つところとは、危ないなあ。特に俺が危ない」
呟きながら、エレベーターのボタンを押す。
「ギフトの所持者が集められているなら、我が君のかつての臣下も、また見つかるかもしれませんね」
由美がふとそんなことを言った。
「ああ、前世で俺が異世界の魔王だという話な」
エレベーターのケージに乗りつつ、俺は頷く。
由美は、去年の冬に俺に接触してきてからこっち、完全に本気でそう信じているが――。
俺自身はまだ「そうかもしれないな……普通の人間にしてはいろいろ妙だし」と疑っている段階である。
だが、今回のことで異世界の存在が明らかになったし、全否定するつもりはない。
だから、由美のか細い肩を叩いて、言ってやった。
「まあ、その話は今度するとして、早速、着替えてから食事に行こう」
「それであの……お部屋は……同じ部屋で……よろしいでしょうか?」
エレベーターから下りた途端、ぶつ切り口調で、由美がそんなことを言う……上目遣いに。
切れ長の目に、眉の上で綺麗に揃えた前髪、それに腰まで届くストレートロングと、なんかもうゲームのヒロインみたいな容姿を持つ奴だが、それでも俺は首を振った。
「隣同士なんだし、今はそれで頼む」
哀しそうな顔をされたが、俺は気付かない振りをした。
どこかで俺が歯止めかけないと。
この学園は、コの字の開いた方が南を向いている。
そして西側は学生寮であり、閉じた方の北側は、娯楽施設やレストランなどがある一画らしい。
生徒数はそう多くないのか、校舎は東側の建物のみで足りるようだ。
俺と由美は私服に着替えてまずレストランを探したのだが、これは専門店街並にたくさんあった。具体的には、一階と二階の一部は、全てそれぞれ別のレストランである。
ロハだと聞いていたが、実は無料で食べられるのは、一階のフードコートだけという……しょっぱ過ぎて泣ける仕組みである。
なにしろ、そのフードコートの無料コースが、きつねうどんとかチャーハンだからな。
あと、想像以上に周囲は女子だらけだ。きゃぴきゃぴした話し声も飛び交ってるし。
「二階の専門店のうち、今日は洋食でいくか? 最初からフードコートできつねうどんとか、号泣しそうになるしな」
「わかりました。費用はわたしが」
「いやいや、それくらい自分で出すって。自腹でいこう、お互いに」
由美は俺が要請すれば、自分の下着ですら、その場で脱いで渡しかねない。
俺達は早速二階へ上がろうとしたが……背後で大声がして、思わず振り向いた。
見れば、両腕に女子生徒を抱えた野郎が、フードコートに座る女の子に絡んでいるらしい。
「俺は心が狭いからな……損な性分だ」
初日は大人しくしてようかと思ったんだが……気付けば俺は、そちらへ歩き出していた。
俺以外の奴が傍若無人に振る舞うのは、むかつく。