え、君ら全裸を見られるの、気にしないのか?
明日の夕刻には、軍用機が迎えに来て出発という……つまり、せっかく学園に戻っても、また明日には出動なわけだ。
せわしいことこの上ないし、なによりここへ来てからこき使われまくってる気がする。
しかし、さすがは姑息な中年、藤原主任教官!
俺達が仲間と別れて元の寮へ戻ろうとすると、思い出したようにスマホに連絡が来て、『あー、君達の功績に配慮して、生徒としては初の特別寮へ移っていいことにしたよ』などと言うではないか!
「え、あの一棟だけ離れた場所にある、サウナ付きの豪華風呂完備とかいう寮? まだ誰も入寮してなかったのか!」
『いや、僕が入ってるけどね。どうせがら空きだし、もったいないだろ?』
「……おい、おっさん」
『はははっ。まあともかく、君達三名の荷物はもう運ばせてあるので、そのまま素で移動してくれたまえ』
「え、ちょっと!」
慌てて呼びかけたが、もう切れた後だった。
俺は顔をしかめて首を振り、今の通話を伝えた。
「女の子の部屋の荷物を勝手に移動とか、失礼ですっ」
「わたしの下着、見られたんでしょうか!」
当たり前だが、リーナも由美もぷりぷりしてたな。
「まあ、あのおっさんに常識を期待してもな」
今更どうもならないので、俺は肩をすくめた。
「少なくとも、運んだのはあいつじゃないさ。多分、女性職員だろうよ……」
すっかり頬を膨らませた二人に、慰めの言葉をかけた。
あと、由美の下着はかなり個性的なのもまじってて、中には子供みたいなアニメプリントものもあったし、そりゃ相手が女性職員だろうが、見られたくないだろうなあ。
ともあれ、言われた通りに回れ右して高級寮の方へ移動すると――。
なるほど、生徒の個人カードで開ける自動ドアの入り口があり、既に登録されているのか、ちゃんと開いた。
エントランスを抜けると、驚いたことに前に聞いたように本当にフロントがあるじゃないか。
しかも、学園とは関係ない職員らしき女性が、制服姿で座っていたりする。
「お話は伺っています。皆さん、お帰りなさいませ」
ポカンとする俺達に一礼し、彼女は俺達の部屋が三階に決まったことを教え、それぞれの部屋のナンバーを告げて、鍵を渡してくれた。
「これで、この寮も少し賑やかになります」
ニコニコとそう言われ、すっかり毒気が抜かれた俺は、思わず低頭しちまった。
この人が、「大抵の希望は聞いてくれる」という、コンシェルジュみたいな人か?
首を捻りながら、三人そろってエレベーターの方へ移動する。
学園内公園の敷地の隅に建つここは、通常寮と違って三階建てに過ぎないが、他の生徒が皆無というのは本当らしい。
さっきの女性は別として、静まり返っているしな。
「三階までしかないのに、エレベーターだけじゃなくて、エスカレーターもありますねっ」
少し機嫌が直ったリーナが指摘した。
「で、俺達は最上階の三階の右隅三部屋をそれぞれあてがわれたか……これで、藤原もいなきゃ最高なんだがな」
エスカレーターに乗って呟くと、女の子二人は揃って大きなため息をついた。
その点を忘れていたらしい。
「とてつもなく邪魔ですね」
ぼそっと由美が言えば、リーナまで頷いた。
「……なぜか同感です」
ちなみに由美は、本当の意味で邪魔だと思えば、相手を殺しかねない。
そこで俺が適当に慰めておいたが、我ながら理不尽である。俺だって別にあいつが好きなわけじゃないんだが。
ただまあ、こと戦闘行動に関する限り、大抵のことには目を瞑ってもらってるからな。
時に、部屋は俺が廊下の一番端、そして真ん中が由美、その隣がリーナという、なんというか、俺達のめんどくさい関係を見抜いたような配置だった。
どうせこれも藤原の差し金だろうが。
「まあいい。今は着替えて、早速風呂だ、風呂っ」
入り口の鍵を開ける前に声に出すと、同じく自室の鍵を開けようとしていた由美とリーナの動きが、ぴたっと止まった。
そこで俺は軽く下ネタのつもりでニカッと言ってやった。
「そうだ、おまえ達も一緒に入るか? 裸を見せるのが気にならないなら、だが」
『ご一緒します!』
……二人で即答して、今度は俺の動きが止まる番だった。
え、君ら全裸を見られるの、気にしないのか?
由美だって、以前のうちにいる時は、風呂は別々だったのに。
今更ながらに「まずったか?」と思ったが、まあ言い出した以上、後には引けない。
「よ、よし、着替え持って、また廊下に集合な。風呂は地下らしいから」
「はいっ」
「すぐに戻りますっ」
……二人ともすげーいい返事だけど、ホントに良いのかよ。
前も似たようなこと書いた気がしますが。
……お風呂場シーンは、回想くらいにしか登場しない予定です(汗)。




